県医師会 溝上 晴久
健康診断などで「コレステロール値が高い」と言われたことはありませんか?
原因は色々ありますが、その中に遺伝的に高くなる場合がある事をご存じですか?
コレステロールにはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)があります。
一般的にはLDLコレステロール(悪玉)値が高い場合を高コレステロール血症といいます。
血液中のLDLコレステロール(悪玉)が増えると動脈硬化を起こし、血管の壁が硬く厚くなり血管の内腔が狭くなります。動脈硬化が進行すると、血管内腔がさらに狭くなり血栓により閉塞し、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な疾患を引き起こします。また、血液中のHDLコレステロール(善玉)が少ない場合も同様に動脈硬化の進行が起こります。
コレステロールが高くなる原因として動物性脂肪の取り過ぎや運動不足、肥満などはよく知られています。その他、閉経後女性ホルモン低下や甲状腺機能低下症、糖尿病、ネフローゼ症候群などの疾患が原因となる場合もあります。そして一番問題となるのが、遺伝的原因により高くなっている場合です。
遺伝的原因の代表が「家族性高コレステロール血症」で、日本では200~500人に1人の割合で存在します。
家族性高コレステロール血症の特徴には次の3つがあります。
① 未治療の状態でLDLコレステロール(悪玉)が180mg/dL以上
② 黄色腫(手背、肘、膝などの黄色いしこり又はアキレス腱の肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫(皮膚の黄色いしこり)
③ 家族(2親等以内)に家族性高コレステロール血症の存在あるいは若くして冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)発症歴
以上の2項目が当てはまる場合に診断が確定します。
家族性高コレステロール血症で問題となるのは、子供の頃からコレステロールの高い状態が長く続く事です。他の原因では成人以降からコレステロールが高くなる場合がほとんどですが、長期間高い状態が続く家族性高コレステロール血症では、若年ですでに動脈硬化が進行している事が多く、30~40代と若い年齢で狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす事がよくあります。そのため、平均寿命も10年以上短くなってしまいます。
しかし、家族性高コレステロール血症であっても、早くから適切な治療を開始すれば、動脈硬化の進行を防ぎ、寿命を延ばす事が可能です。
食事療法及び運動療法は基本ですが、それだけで改善は難しく薬物療法が必要となります。薬物療法の第一選択として、肝臓でのコレステロール合成を抑制するスタチン製剤があります。スタチン製剤で効果不十分の場合、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤や陰イオン交換樹脂などの内服薬併用が必要となります。
また、内服薬でも効果が十分でない患者さんのために、肝臓内にある一部の酵素を阻害して血中のコレステロールを下げるPCSK9阻害薬という新しい注射薬が2016年に発売されました。
生活習慣改善などで頑張っても、なかなかコレステロール値が正常にならない場合は家族性の可能性もあります。一度専門医に相談されてはいかがでしょうか。