経鼻内視鏡検査

 県医師会   城井 啓

 本邦に多い胃十二指腸疾患に対し胃カメラは有用ですが、ピロリ菌感染者数減少に伴い増加している逆流性食道炎の診断にも優れた検査です。しかし、胃カメラは苦手という方が多いのが実情です。そのため、近年鼻から胃カメラを行う『経鼻内視鏡』が開発され、スクリーニング検査を中心に広がってきています。ある調査によると、口からの胃カメラ『経口内視鏡検査』を受けた後に「もう二度とやりたくない」と考えていた人の90%以上が、「鼻から入れる内視鏡検査ならまた受けてもいい」と答えています。

 2002年に日本で開発・実用化された経鼻内視鏡は、内視鏡が細いこと、舌の奥に触れないため経口内視鏡よりも吐き気が少なく咽喉頭部の観察も容易なほか、検査中に会話が可能で緊張緩和にも有用です。経口内視鏡は吐き気や息苦しさにより交感神経が刺激されることにより心臓に負担がかかったり、唾液が口の中に貯まることなどによって低酸素状態になることから心拍数・血圧が上昇し、心臓の酸素消費量は増加しますが、経鼻内視鏡は、そういった変化はあまりなく、心肺機能への影響が少ないとされています。さらに咽頭麻酔ではなく鼻腔麻酔のみで検査が可能であり、検査による誤嚥防止にも期待できます。さらに経口内視鏡に比べて麻酔薬、鎮静剤、鎮痙剤も少なくできますので、薬剤使用によって偶然引き起こされる体のトラブルの発生リスクも低減できると考えられています。

 我が国における対策型胃がん検診では胃X線検査のみが推奨されていましたが、平成29年度より対策型胃がん検診として長く待ちわびていた胃内視鏡検診が正式に推奨されました。これに伴い新たに内視鏡検診を導入する市町村が増えていますが、かかる内視鏡検診に大きな役割を果たすのが経鼻内視鏡と思われます。

 経鼻内視鏡は鼻の中を通すため経口内視鏡よりも2~5㎜細くなったことが検査が楽になった一因です。しかし細くなったことで、内視鏡の先端に装着されているCCDカメラの解像度、操作性、視野角(観察できる角度)、光量などの性能が犠牲となっていました。鉗子孔(かんしこう)と呼ばれる体の組織を採取するための道具が通る部分が細く、十分な組織が採れなかったり、行える処置も限られたり、空気を送り込む孔(あな)が細く胃の中を膨らませるのに時間がかかるという難点もあります。開発当初、細い経鼻・経口細経内視鏡と通常の太さの内視鏡の診断能力が比較され、細い内視鏡の方が劣っているという研究論文が出されました。しかし、その後の内視鏡機器メーカーの開発技術により、内視鏡の解像度がアップされたほか、各種性能も改善され、一般検査においては通常の太さスコープと変わり無いのではないかと言われるまでになり、もはや内視鏡診断の質を左右するのは内視鏡機種ではなく、内視鏡医の観察眼ではないかともいわれるようになりました。

 経鼻内視鏡は内視鏡検査に熟練した医師でなくても検査は比較的容易ですが、時に十分な観察・操作が難しくなるという短所もあります。検査を楽に、かつ十分観察するためには内視鏡技術を習得した医師による観察が重要であると考えます。

 胃など上部消化管の調子が優れないときには、かかりつけ医に相談してみてはいかがでしょうか?