タバコの害と肺気腫

県医師会    久保 良一

 タバコが健康に及ぼすことは誰もが知っている事実です。しかし、そのことを知りながらも、未だに喫煙を続けている人が多いのも現状です。最近の日本の喫煙人口は推計で、男性では成人喫煙率30%、約1500万人、女性は8%、約520万人で、合計約2000万人程の喫煙者がいると言われています。

 タバコの有害物質は、よく知られているニコチンやタール、一酸化炭素だけではなくて、タバコの煙には200種類以上の有害物質があり、発がん性物質も50種類以上含まれています。そして、これらの有害物質が喫煙で体内に入り蓄積されると、がんが起こりやすくなり、高血圧や心筋梗塞、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患の原因になります。また胃潰瘍(いかいよう)、糖尿病、認知症、骨粗しょう症などに悪影響や病気のリスクを高めることがわかっています。

 また受動喫煙と呼ばれる、タバコを吸わなくても他人の喫煙のタバコの煙を吸い込む事で起こる健康被害が大きな社会問題となり、そして2020年東京オリンピック、パラリンピック開催に向けての受動喫煙対策法が国会で議論され、その結果が注目されています。

 そこで、タバコの害の中でも肺気腫について述べたいと思います。

 肺気腫とは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ばれる呼吸疾患の一つです。肺の気管支の末梢には、肺胞と呼ばれる仕切られた房のような部屋があり、その肺胞の壁を介して酸素を血液に取り込んでいます。しかし、長期喫煙や大気汚染で、有害物質を肺に吸い込むとその害で肺に炎症がおこり、数個の肺胞が壊れてつながり、肺が膨張し過ぎて弾力性がなくなり、例えると膨らみ過ぎた紙ふうせんのようになります。

 肺気腫の原因ですが、約90%が過度の喫煙で、中年以降の男性に多く発症します。しかし、進行が徐々のため自覚症状が乏しく、悪化すると慢性の咳や痰、そして酸素不足により、動いた時の息切れや動悸などが見られます。また全身に影響が出ると、栄養障害として体重減少や筋力低下が出現する事があります。

 この肺気腫と、そして慢性気管支炎は、慢性閉塞性肺疾患と呼ばれています。近年、日本ではCOPD患者は増加し、推定約530万人と報告されています。COPDの人は自覚症状が乏しいため、多くは医療機関を受診していない現状です。

 肺気腫は、質問票による問診、胸部X線検査、胸部CT、呼吸機能検査などで診断ができます。

 肺気腫で一度壊れた肺胞は元に戻りません。しかし、軽度のうちに発見し、禁煙や薬物治療をすることで進行を食い止め、呼吸機能悪化を防ぐことができます。

 肺気腫が進行し、在宅酸素治療が必要にならないためにも、長期間喫煙の人は医療機関を受診し、肺気腫かどうかの検査を受けましょう。

 奈良県医療推進協議会は、受動喫煙防止法の早期成立に向けて決議文を採択しました。

 あなたのため、そばにいる人のため、喫煙の健康被害から守るため、一日でも早く禁煙してください。