県医師会 井村 龍磨
在宅医療という言葉を、耳にしたことがあるでしょうか。医師が患者さんを診察するのに、外来や入院は一般的ですが、第3の診察場所として在宅医療があります。これは医師が、病気や後遺症、また高齢や障害の為に直接外来には行くことが難しい患者さんの自宅に直接出向くことで、普段寝ているベットサイドで診察・検査・投薬等の医療行為を外来診療と同様に行います。最近では通院困難な高齢者に対して、入所されている介護施設に出向くような例も増えています。
在宅医療に求められている役割は多岐に渡りますが、大きく四つに分かれるかと思います。一つは入院から退院できるように支援することです。退院が近づいた患者さんがスムーズに自宅での医療を受けられるように、退院前から関わり、一緒に準備を進めます。
二つ目の役割は在宅での生活をサポートする健康管理です。訪問診療で継続的な医療行為を行うことで、かかりつけ医として特定の診療科に限定されないような幅広い病状へと対応します。具体的には在宅医療が必要になった病気によって様々ですが、癌の緩和治療のような変化の激しい病状から、老衰に伴う比較的ゆっくりとした経過の病状まで対応します。医療行為としても点滴や注射から酸素吸入や気管切開等の呼吸管理、胃瘻等の栄養管理、膀胱等に留置された管の管理と様々に及びます。また、在宅での健康管理にはケアマネージャーや訪問ヘルパー・看護師等と密に連携することで介護的側面からのサポートも非常に大切です。
三つ目の役割は急変時の対応です。重い病気を抱えながら家で生活することは、いつ体調が悪化するかと不安がついて回ります。実際に急変時の不安が、入院から在宅医療へと踏み込めない理由になることが多いようです。在宅医療に関わる医師の大半は診療所で開業している医師が多く、一人で外来診療も行いつつ対応することになりますので、在宅での急変時すべてに対応するには限界がありますが、今後もっと在宅医療を普及させる為には必要なことです。また、様態によっては病院での専門的治療へとつなぐ役割も大切です。
最後に四つ目の役割は看取りです。最後まで家や施設で過ごしたいという患者さんや家族の希望をサポートします。しかし、在宅で看取りを行うにあたり、死をあたり前の事と認識する習慣が日本人には乏しいこともあり、介護をする家族の精神的な負担から疲弊してしまうことが多いようです。事前にしっかりと情報提供や精神的なサポートを行い、死を迎えていく準備を共にしていきます。特に今後、ますますの多死社会へと向かう中で、看取りの役割は重要となります。
在宅医療の体制は徐々に整備されてきています。最初から無理だと諦めずに、まずは医療機関で相談してみてください。