県医師会 井上孝文
みなさんは「カルシウム」と聞いて何を連想されますか?「カルシウムが不足すると骨が弱くなる」といったイメージをお持ちの方が多いのではないかと思います。実際、体内のカルシウムのうち99%は骨に分布しており、丈夫な骨を維持するためにはカルシウムは欠かせない存在です。また、カルシウムはただ単に骨の材料であるだけでなく、心臓を含む全身の筋肉を収縮させたり、血液を固まらせたりする時にも重要な役割を担っています。血液中のカルシウム濃度は、主に副甲状腺ホルモンの働きによって調節されています。
副甲状腺は、甲状腺の後面にはりつくように存在する米粒大ほどの小さな臓器です。小さすぎて、超音波検査やCT検査をしてもその存在はわかりません。通常は甲状腺の左右両葉の上下に2個ずつ、すなわち合計4個の副甲状腺が存在しています。副甲状腺と言っても甲状腺とは全く別の臓器であり、副甲状腺ホルモンの働きも甲状腺ホルモンとは全く異なります。具体的には、副甲状腺ホルモンは活性型ビタミンDと協調して、カルシウムを骨から血液中に送り出したり、腎臓や小腸からのカルシウムの吸収を促したりして、血液中のカルシウム濃度を上昇させます。もしカルシウム濃度が高くなりすぎると、副甲状腺ホルモンの分泌が抑えられる仕組みになっていて、このおかげで血液中のカルシウム濃度は常に一定に保たれています。
さて、副甲状腺にも腺腫やがんなどの腫瘍ができることがあります。これらの腫瘍はもともと副甲状腺の細胞由来ですから、たとえ腫瘍細胞であっても副甲状腺ホルモンを分泌する性質が保持されています。困ったことに、腫瘍細胞は血中カルシウム濃度にかかわらず必要以上の副甲状腺ホルモンを分泌するので、結果的に血中カルシウム濃度が高い状態(高カルシウム血症)を引き起こしてしまいます。このような病態は原発性副甲状腺機能亢進症と呼ばれています。
原発性副甲状腺機能亢進症は、日本人では2000~3000人に1人の割合で発見される病気です。無症状のまま健康診断で、あるいは日常診療のスクリーニング検査で高カルシウム血症を指摘され、それがきっかけとなってこの病気が見つかることがあります。高カルシウム血症に関連する症状として、消化器系では嘔気や食欲不振がみられたり、胃潰瘍を併発したりすることがあり、精神神経症状として情緒不安定や不眠、重症例では昏睡を起こすこともあります。また、尿中のカルシウム排泄量が増えて尿路結石症を起こしやすくなるので、泌尿器科を受診した際にこの病気が見つかることもあります。さらには、骨からカルシウムが抜け続けるため、骨痛や病的骨折などがみられることがありますが、最近ではここまで進行してから発見される患者さんは少ないと言われています。
この病気を見つけるためには、血液中のカルシウム濃度の測定を適宜実施しておくことが大切です。測定に関してはかかりつけ医にご相談ください。