県医師会 勝山 慶之
心臓には4つのお部屋があります。心臓弁膜とは、そのお部屋の間にあるとびらのことです。このとびらがうまく開いたり閉じたりすることで、私たちの心臓は血液を次の部屋に送り、活動に必要な血液を全身に送ることができます。
心臓を長い間使っていると、このとびらが、ゆがんだり、傾いたり、うまく開かなかったり、閉じなかったりします。そうすると、全身に十分な血液がいきわたらず、疲れやすくなったり、息切れがしたり、身体がむくんだりします。この状態を弁膜の病気「弁膜症」といいます。
弁膜症には、逆流症(ぎゃくりゅう:うまく閉じず、血液が逆流する状態)と狭窄症(きょうさく:うまく開かず、血液が送れない状態)があるわけですが、最近、高齢化に伴い問題となるのが大動脈弁狭窄症です。
大動脈弁とは、肺できれいに酸素化された血液を全身に送るポンプである左心室(さしんしつ)と血液を全身へおくる大動脈との間にある弁膜(とびら)です。
このとびらは1日10万回も開いたり閉じたりをくりかえしています。血液の量にすると1日8000リットル、ご家庭のお風呂のお湯(約200L)40杯分です。1年で3600万回、30年で10億回、60年で20億回です。本当に気の遠くなるような数字です。さすがにこれくらい使っていますと、とくに高血圧など血管に負担のかかる病気があるとなおさらですがこの弁膜が硬くなったり、ひびがはいったり、そこにカルシウムが沈着してかたまったりします。
また、生まれつきこの弁膜が2枚構造(本来は3枚構造)になっている方は、二尖弁といい、とくに負担がかかりやすくなって、大動脈弁狭窄症になりやすいとされています。
弁膜が狭くなっても、軽い間は特に症状はありませんが、この病気の怖いところは症状が出だすと急激に悪化することです。たとえば、狭心症(心臓の筋肉にうまく血液を供給できない)失神(とびらが狭いのでうまく血液を脳へ運べなくなり一瞬、気を失う)心不全(歩くと息切れ、つかれやすい、むくみ)などの症状があれば2~5年で突然死に至るといわれています。
しかし、早く見つかれば、余裕を持って治療対策をたてることができます。心電図、レントゲンや血液検査で、心不全や狭心症の有無を調べて、また心臓超音波(エコー)という痛くない検査で、とびらの動きを詳細に観察することができます。
程度が軽ければ、日常生活や食事に気をつけて経過をみるという選択肢もあります。進行した場合でも、手術や最近はカテーテル治療で劇的に良くなることがあります。
弁膜症では、心臓の聴診をすれば、心雑音(シュ~とか、ズ~とか聞こえます)をかなりの確率でみつけることができます。診察を受けるときは症状がなくても必ず聴診器をあててもらいましょう。