奈良県医師会 原 健二
最近の新聞を読むと、救急車の受け入れ拒否や救急患者のたらい回し、そして地域の病院の診療科の縮小や閉鎖といった見出しばかり目に入ってきます。このように具合の悪くなった人たちが適切な医療を受けられない事態が頻発していることはとても残念なことです。
こういったことが起こっている理由としては、医師の絶対数の不足や、専門科別、あるいは地域間での医師の偏在が大きな要因であると言われています。また平成十六年から始まった新臨床研修制度と呼ばれる、医師国家試験に合格した新人医師の教育システムが従来とは大きく変わったことが関係しているということも確かなことです。それだけではなく、私たち医師はこのような現象がこれまで政府が続けてきた医療費抑制政策と無関係ではないと考えています。
夜間に具合が悪くなって救急病院を受診した経験のある人は少なくないと思います。しかし当然のことですが、病院は通常の診療時間帯より夜間や休日では、はるかに不十分な体制になります。よほど大きな病院でないかぎり、救急患者の診療には当直医とわずかなスタッフで当たっているのです。しかも、病院の当直医は入院患者の状態が悪くなれば、外来診療より優先してその患者を診療する必要があります。
もちろん、急に病状が悪くなった時には、辛抱せずに医療機関を受診することが必要です。しかし救急外来を訪れる患者さんの何割かは、受診する前から症状が出ていたり、徐々に持病が悪くなっている人もいます。そのような人は、夜間や休日に救急外来へ駆け込むよりも、出来るだけ通常の診療時間等に診察を受けることが大事です。診療する側も、そのほうがよほど良い医療が提供できます。
日頃から糖尿病や高血圧などの慢性疾患がある人は、主治医の指示に従って定期的な通院と服薬が必要です。このような病気はふだんは無症状のために、ついつい薬を飲むのを忘れたり、通院を怠りがちです。脳卒中や心臓の発作はそのような時に起こることが多いのです。
とにかく、私たち医師はそれぞれの持ち場で最善をつくしたいと考えています。しかし、スーパーマンではありません。検査設備が不十分であったりスタッフが少なかったり、あるいは医師自身が睡眠不足や過労が重なっているような条件のもとでは十分な診療はできません。病状によってはほかの専門科の医師に送る必要があっても、時間外だとスムーズにいかないことが多いのです。
私たち医師も「医療崩壊」と呼ばれる事態をなんとかしたいと考えています。そのためには、医療をする側と受ける側が上手につき合っていくことが必要ではないでしょうか。