糖尿病性神経障害

奈良県医師会 赤井 靖宏

 現在わが国では、1800万人以上の糖尿病患者と、その予備群がいると言われています。糖尿病といえば、とかく血糖の高低のみに目が行きがちですが、糖尿病は全身の血管に影響を及ぼす病気であることを皆さんはご存じでしょうか?

 血糖値が高い状態が続くと、全身の細かい血管に病変が現れてきます。眼の網膜(もうまく)の血管に病変が現れると失明の原因になりますし、腎臓の血管が障害されると腎不全になって、透析などが必要になる場合があります。

 しかし、糖尿病によって細かい血管が障害されることで、最も影響を受けるのは神経だと言われています。神経に栄養を送る細かい血管が高血糖の影響を強く受けると、糖尿病性神経障害が発症します。

 糖尿病性神経障害は、足の先端から始まります。症状としては、足がぴりぴりする、しびれる、足の裏に紙が1枚張り付いているような感じ、綿(わた)の上を歩いているような感じなど、異常な感覚を訴える患者さんが多いようです。

 このような症状を訴える患者さんの多くで、足の感覚が鈍くなっています。患者さんご本人は、このことに気づいておられない場合がほとんどです。このような場合、足にけがや火傷(やけど)をしても気づかずに放置してしまい、足の切断など思わぬ大病につながってしまう場合があり、注意が必要です。

 糖尿病性神経障害は、上記のような感覚の異常以外に、自律神経の働きにも影響を及ぼすことがあります。その結果、立ち上がったときに立ちくらみが起こる起立性低血圧や、汗のかき方が異常になる、胃の動きが悪くなるなど、様々な障害が現れる場合があります。

 糖尿病性神経障害を予防するためには、血糖コントロールを良くすることが大変重要です。細かい血管は、一定期間、血糖コントロールが悪いだけで障害を受けると言われています。「常に良好な血糖コントロールを保つことが大変重要だ」と言われるゆえんです。

 糖尿病性神経障害は、いったん発症すると元の状態に戻すことはできませんが、早期に発見すれば進行を抑えられる場合があります。

 糖尿病患者さんで、上記の症状が気になる場合には、ぜひかかりつけの医師にご相談ください。