奈良県医師会 森岡 敏一
「肺動脈血栓塞栓症(はいどうみゃくけっせんそくせんしょう)」、略して「肺塞栓症」)は、全体的に見て、非常に死亡率の高い病気です。
発症した後に手術で血の塊(かたまり)である血栓を取り出し、以前の状態に戻すことは、ほとんど不可能です。急変後に命が助かっても、その後、呼吸困難のため、「在宅酸素療法」と言って、自宅で酸素を吸入し、外出時にも絶えず酸素ボンベを携行して吸入する治療が必要になることが少なくありません。
再発予防が重要で、血液を固まりにくくする薬をずっと内服します。それでも再発の恐れがある時には、心臓近くにある大静脈の中に傘のような形状のフィルターを挿入して、大きな血栓が流れてきても、そこで捕まえられるような手術をします。この手術は、足の静脈からカテーテルという管を挿入し、局所麻酔により短時間に、また、比較的簡単に行うことが出来ます。
それでは、肺塞栓症を起こす静脈にできる血栓の原因は何でしょうか? 皮膚から深いところにある太い静脈(深部静脈)の壁に何らかの原因で深部静脈に炎症が起きたり、外からの圧迫で静脈の流れがとどこおったりすると、その部分で血液が固まって血栓が出来やすくなります。この深部静脈の血栓が静脈の壁からはがれて、肺の動脈につまるのです。
発症しやすい人は、どんな人でしょうか? 静脈が圧迫されやすい、肥満の人に多くみられます。また、脱水や、他の病気による「血液の粘(ねば)り気」、また「女性ホルモン」が影響することも分かっています。
生活上の注意は、やはり、足を長時間動かさないことにより静脈血栓が出来やすくなるのを避けることです。飛行機などを使う場合、時々は立ち上がって歩いたり、座っていても足やひざを曲げ伸ばしする体操をしたりすることが必要でしょう。水分を多くとって、血液が濃くなり過ぎないようにすることも重要です。病気や手術後で長く寝ている時は、特に静脈血栓ができやすいので、病院では予防対策をとるようになっています。
そして皆さんは、急に足が赤く腫(は)れていることや、むくみに気づいたら、「深部静脈血栓症」の可能性がないか、病院でよく診てもらうことが大切です。