誤嚥性肺炎

奈良県医師会 前之園 晃幸

唾液(だえき)などの口腔内分泌物(こうくうないぶんぴつぶつ)や食べ物、または嘔吐(おうと)などによる吐瀉物(としゃぶつ)を誤って気道内に吸い込んでしまうことを「誤嚥」と言います。また、誤嚥した異物やそれらに含まれる細菌などで引き起こされる肺炎を「誤嚥性肺炎」と言います。

誤嚥は健常者でも食事中などに起こりますが、咳などにより異物は気道外に排除され、なかなか肺炎にはなりません。しかし、高齢者や脳の病気の方などでは、食べ物や水を飲み込む働き(嚥下機能:えんげきのう)が低下していて、誤嚥を繰り返す事があります。またこのような方は、睡眠中などの安静時にも口腔内分泌物を少しずつ気道内に吸い込んでいる事があります(不顕性誤嚥:ふけんせいごえん)。

高齢者に起こる誤嚥性肺炎は、通常の肺炎と比べて咳(せき)や痰(たん)などの典型的な症状を認めず、気付かない事があります。単に元気がなくなる、食欲がない、活動性が落ちるなどのみのため受診が遅れ、重篤な状態に陥る事も少なくありません。

誤嚥性肺炎の治療

誤嚥性肺炎は、抗生物質の投与を中心とした薬物療法や酸素投与などで治療します。高齢者の場合、重症化しやすく再発する方も多いです。再発する方は、嚥下を改善する薬を服用してもらいますが、嚥下機能を調べて食事の経ロ摂取(けいこうせっしゅ)が困難であれば、胃瘻造設処置(いろうぞうせつしょち:腹壁から胃に直接差し込んだ管で栄養剤や流動食を注入する方法)などの経管栄養(けいかんえいよう)を考慮する事もあります。

誤嚥性肺炎の予防

誤嚥性肺炎を予防するため、以下の事に心掛けましょう。

  1. 食事の際、寝たきりの方でも出来るだけ座位で、飲み込みやすい姿勢(前屈位:ぜんくつい)を保つようにします。食べ物は、ゼリー状、ムース状、ペースト状材質のものが飲み込みやすいです。また、逆流を防ぐために食後2時間程度の座位も重要です。
  2. 誤嚥性肺炎の原因となる細菌は、ロ腔内の常在菌(じょうざいきん)が多いです。歯磨きやうがいをして、ロの中をいつも清潔に保つ事が重要です。また、歯磨きそのものがロ腔内の神経を刺激して嚥下機能を改善します。
  3. 口腔内の乾燥や痰の排出が困難にならないように、日頃から十分な水分摂取も重要です。

介護制度の充実により在宅で療養される高齢者が増えました。誤嚥性肺炎の予防には、御家族など周囲の方による日頃の注意が大切です。