奈良県医師会 竹川 隆
長引く咳、痰(たん)、息切れはありませんか? COPD(慢性閉塞性肺疾患:まんせいへいそくせいはいしっかん)の可能性があります。
肺は、呼吸運動により酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出しています。吸い込んだ空気は、気管、気管支、細気管支を経て、ぶどうの房のように連なる肺胞(はいほう)に達し、酸素と二酸化炭素を交換します。そして、同じ道筋を経て呼気として排出します。COPDでは、気管支、細気管支、肺胞にわたる広い範囲で慢性の炎症が生じ、浮腫(むくみ)がおこり、痰が多くなります。これを取り除こうと、咳がでます。さらに痰の量が多くなると気管支がふさがれ、空気が通らなくなります(慢性気管支炎の状態)。さらに肺胞の壁がこわれ、肺胞が大きくふくらみ、弾力性、収縮性が低下してきます(肺気腫の状態:はいきしゅ)。このため空気を吸いにくくなり、息切れをおこしやすくなるのです。放置しておくと呼吸不全、心不全にいたります。
COPDはよごれた空気を繰り返し吸うことにより発症します。原因のほとんどがタバコです。COPD患者の90~95%に喫煙歴があり、喫煙者の15~20%がCOPDになると考えられています。COPDはタバコ病とよばれることもあるのです。わが国は、いまだに先進国に比べ喫煙者が多く、若い人や女性では喫煙者が徐々に増加しています。また、他人のタバコの煙を吸わされること(受動喫煙)が発症の原因になることもあり、注意が必要です。特に、肺がまだ完成していない乳幼児期に、家族(特に母親)が喫煙していると大きな影響を与えてしまいます。そして、女性のほうが男性よりタバコの害を強く受けるという報告があります。女性の喫煙はより危険です。
COPDは、気道の炎症や肺胞の破壊が進行していく病気のため、元の状態にする治療は現在ありません。ただ、新たな薬剤開発や呼吸リハビリテーションの発展と普及によって、これまでより改善できるようになっています。現在ある状況をできるだけ改善し、それを維持するのが、現時点での基本的なCOPD治療なのです。特に予防も含め、どの状態でも、禁煙が最も重要になります。
COPDの患者はわが国では500万~700万人といわれています。これは糖尿病患者に匹敵する患者数です。しかし、実際に治療を受けている人は20数万人程度です。禁煙の重要性を再度認識するとともに、早期診断のためにも、長引く咳や痰、息切れがあれば、かかりつけ医に相談してください。