奈良県医師会 原 健二
認知症(にんちしょう)では、日常生活の中でもの忘れが徐々に強くなって、これまでふつうにしていたことがうまく出来なくなります。これらの症状は、熱があったり意識が悪いときにだけ一時的に現れるのではありません。大切なことは脳の中に原因となる病気があるということです。また、高齢化によって認知症の患者さんが増えているということは確かですが、加齢が原因というわけでもありません。
認知症という用語は、そのような症状全体を指しますが、病名として使用されることもあります。
認知症は、高齢者の病気ですが、ときに若くても発病することがあり、一般的に65歳より前に発症すると初老期認知症(若年性認知症:じゃくねんせいにんちしょう)と呼ばれます。
認知症をきたす病気でもっとも多いのは、アルツハイマー病です。アルツハイマー病についての解明はかなり進んできましたが、まだほんとうの原因はよく分かっていません。
アルツハイマー病では、脳の中で神経の信号を伝える働きをしているアセチルコリンという物質が減少していることはかなり以前から分かっていました。現在、これを補うような薬をアルツハイマー病の患者さんに飲んでもらうことによって、症状を良くしたり進行を抑えたりすることがある程度可能となっています。今年になっていくつかの新しい薬も認可販売されるようになったことは、治療の選択肢を広げるという意味で、患者さんには朗報ではないかと思われます。ただ、このような薬がすべての患者さんに効くというわけではありません。むしろ興奮や幻覚、妄想といった精神症状や行動障害を抑えるほうが良い結果が得られることもあります。
その人に関わる家族や周囲の人たちの認知症に対する正しい理解と良いケア、そして、暖かいサポートがいちばん大切であることはいうまでもありません。
家族のだれかが「認知症かな?」、と思ったら主治医と相談しましょう。また、奈良県医師会のホームページには、そのような相談にのってもらえる「物忘れ相談・認知症診療医療機関リスト」を公表していますので、ご利用ください。