奈良県医師会 中村 義徳
「排便の後、便器が真っ赤になっていた」、「便が黒い」といったような経験はありませんか? 真っ赤な血を見間違えることはないでしょうが、「なんか赤っぽい」とか「黒い便が出た」という場合に、便に血が混じっているかどうかが問題になります。
下血とは「肛門から血が出ること」ですが、「血便」、「粘血便」あるいは「タール便」などの「便に血が混じる状態」も、同じく「下血(血がくだること)」の仲間です。こうした症状は消化器のどこかに血の出る病変が「現在ある」、あるいは「ごく最近あった」ということを示します。
血液の量が比較的多い場合は、便が柔らかくなったり(軟便:なんべん)下痢気味になることが多いのですが、軟便でなくても「墨のように黒い便」が出た時は胃や十二指腸などの上部消化管(じょうぶしょうかかん)からの出血が疑われます。
タール便は、主に小腸や右側の大腸(右半結腸:うはんけっちょう)からのやや多い出血を考えますが、上部消化管からの出血が特に多い場合は、タール便になります。水に薄まると赤みが増すのが特徴です。一方、「焦げ茶色だが、墨のようではない」場合は、単に便秘気味の時の、水分が少なく粘っこい便や硬い便で、血液を含まないことが多いものです。
鮮紅色(せんこうしょく:真っ赤なこと)の血が、排便の前後に、あるいは下痢便や硬便(こうべん:かたい便)と一緒に出るような場合には、肛門に近い大腸(左半結腸:さはんけっちょう、S状結腸)や直腸、肛門からの出血を疑います。
とはいえ、便に血が混じっているかどうかの判断は意外と難しいものです。見た目には便に血が混じっているかどうか分からないことも多く、「便潜血(べんせんけつ)反応検査」が「下血」のスクリーニング(拾い上げ検査)の方法として役に立ちます。詳しい検査用の専用器具がありますが、潜血反応を調べる便や尿の試験紙でも大まかなことは調べられます。
下血があるからといって、早速に治療が必要というわけでもありませんが、確かな診断をつけて、処置あるいは治療が必要かどうか、そして「いつ」、「どのように」それらを行うかの見極めが肝腎になります。