奈良県医師会 中村 義徳
「下血」が明らかとなり「確定診断」をしようとする時の検査には、消化管X線検査、内視鏡検査、超音波検査、RI検査(シンチ)、CT検査、MRI検査、便の細菌検査などがあります。ただし、これらの詳しい検査を行う前に、下血にまつわる状況を整理し、身近な診察を通して診断に迫るのが臨床医としては大切になります。「問診と理学的所見」は診察の基本です。
排便後に、ポタポタ血が便の上に落ちる、飛び散るように血が出た、そのわりには痛みが少ない。こんな時、まず「疣痔(いぼじ)=内痔核(ないじかく)」を疑います。これは、肛門直腸指診(こうもんちょくちょうししん)を行うことで、大まかな診断ができます。
出血はないが、突然感じ始めた肛門部の痛みが続き、押さえると痛む大豆ほどの大きさの瘤(こぶ)が肛門部に見えるあるいは触れる場合は、盲痔核(もうじかく)です。外痔核(がいじかく)に血栓(けっせん)という血の塊ができて腫れたために、強い痛みの症状が出たものです。
いずれも、肛門の痔静脈(じじょうみゃく)の不調が原因です。
出血は少ないが排便時に強い痛みがあり、排便後もしばらく続くのは、「切れ痔(裂肛:れっこう)」、すなわち排便の際にできる肛門の裂傷(れっしょう)です。
出血はなく見た目上の異常は目立たないが、 疼(うず)くような肛門痛が続き、排便や肛門直腸指診の際には痛みがさらに強くなる場合には、肛門や直腸の周りに膿の溜まる病変(肛門直腸周囲膿瘍:こうもんちょくちょうしゅういのうよう)を疑います。これは、高い熱を出すことがあります。痔瘻(じろう)は、この膿瘍が肛門周囲の皮膚、肛門内や直腸の中に破れて細い病的なトンネル(瘻孔:ろうこう)を作ったものです。少量の血を含む膿が下着につくことがあります。
問診・視診・触診などで痔疾患の診断がつけば、確認のために内視鏡検査などを行うこともありますが、軟膏、座薬、抗菌薬、内服薬など、あるいは外科的な治療の選択を行うことになります。
下血の原因となるような肛門の異常が見当たらない場合は、直腸から口側(こうそく)の消化管がターゲットになります。
―11月3日につづく―