奈良県医師会 中村 義徳
消化器といえば、食道・胃・十二指腸・空腸(くうちょう)・回腸(かいちょう)・盲腸・上行結腸(じょうこうけっちょう)・横行(おうこう)結腸・下行(かこう)結腸・S状結腸・直腸・肛門管(こうもんかん)・肛門などのひと続きの「消化管」と、管(くだ)ではない肝臓や膵臓(すいぞう)などの「実質臓器(じっしつぞうき)」を区別します。
肝臓や膵臓の「がん」などでも下血を起こすことはありますが、多くの場合、消化管の「潰瘍(かいよう)」や血管などからの出血が問題になります。
食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)、胃・十二指腸潰瘍などからの出血は、 吐血(とけつ)や下血の原因になります。出血の量が多いときにはタール便になりますが、多くは墨のような黒色便になり、慢性的に出血が続くと貧血になります。胃がんなどからの出血も同じように考えられます。
小腸や大腸などからの出血では、当然のことながら、肛門に近くなると赤みの強い下血になります。色々な疾患が挙げられますが、良性のものではメッケル憩室(けいしつ)、クローン病、潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)、大腸ポリープなどがよく知られています。悪性疾患の代表例は大腸がんです。大腸ポリープや大腸がんは近年増えています。
消化管のいずれの病変であっても、疾患が良性なのか悪性なのかで、その後の治療や経過がずいぶん違ってきます。便潜血反応検査(べんせんけつはんのうけんさ)で引っ掛かってくる程度の下血で詳しい検査を行い、早期診断、早期治療を行うことが大切です。
最後に一言。下血があるからといって、慌てる必要のないことが多いものです。しかし、激しい腹痛や発熱などと同時に、下痢のような下血や粘血便がある場合には、腸間膜動脈塞栓症(ちょうかんまくどうみゃくそくせんしょう)や腸間膜静脈血栓症(ちょうかんまくじょうみゃくけっせんしょう)といった腸間膜の血管の異常や、O157(病原性大腸菌)、カンピロバクター、ノロウイルスなどによる感染性腸炎など、重篤な疾患の可能性があり、その場合は、のんびり構えてはいけないことを付け加えておきます。