奈良県医師会 竹川 隆
明らかな原因もなく、突然に、多くの場合、片側の耳が聞こえなくなることがあります。突発性難聴の可能性があり、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診する事が必要です。症状は、突然に耳が聞こえなくなると同時に、耳鳴りや耳がつまった感じ、めまいや吐き気が生じることもあります。特にめまいは約半数の患者さんに認められますが、改善すると繰り返さないのが特徴です。この点はメニエール病(激しい回転性のめまい、難聴、耳鳴り等の症状が同時に重なる内耳の疾患)と異なります。また、突発性難聴では耳以外の神経症状(麻痺(まひ)や意識障害など)が認められないのも特徴です。
急性期の治療として最も重要なものは安静です。突発性難聴の発症前に精神的、肉体的ストレスを感じていることが多く、心身ともに安静にして、ストレスを解消することは重要です。安静のみでも内耳循環障害(ないじじゅんかんしょうがい)の改善が期待されます。
そして、ほとんどの症例で副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイドが用いられます。副腎皮質ステロイドの持つ強カな抗炎症作用(こうえんしょうさよう)や、免疫的な作用機序(さようきじょ)、循環系に対する機序が改善に関与します。状況により血管拡張薬や抗凝固薬(こうぎょうこやく)も用いられます。また、代謝改善薬や向神経ビタミン製剤も併用されることがあります。薬剤以外では二酸化炭素による血管拡張を期待して、酸素・二酸化炭素混合ガス吸入が行われています。さらには、血液内酸素濃度を上昇させるために高気圧酸素療法も試みられています。また、星状神経節(せいじょうしんけいせつ)ブロック(ペインクリニックで最も頻繁に行われる治療法のひとつ)が行われることもあります。
難聴が改善する多くの場合、治療後は急速に改善し、徐々に一定の聴力に達するような回復過程を示しますが、治療開始後より少しずつ回復する場合や、全く改善しない場合もあります。治療後の経過や見通しが良くない因子としては、①発症後2週間以上を経過した症例、②発症時、平均聴力レベルが90dB以上の高度難聴例、③回転性めまいを伴う症例、④高齢者、などです。突発性難聴は再発しないことが一つの特徴とされており、突発性難聴が再発するようであれば、メニエール病、聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)など他の疾患を疑わなければなりません。 突然耳が聞こえなくなったら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。