過敏性腸症候群

奈良県医師会 竹川 隆

何となくおなかが張る、痛い、すぐ便秘をする、または下痢をする、下痢と便秘が交互に生じる、などの症状が続いて困っていませんか? 腸の検査をしても異常がなければ、「過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)」の可能性があります。どうして、このようなことが起きるのでしょうか。

腸は、食べ物を送り出す働きや消化吸収という働きがあります。これらは、腸管(ちょうかん)自体の働きですが、一方で、脳から自律神経系、内分泌(ないぶんぴつ)系などを介して複雑に調整されています。この調整が様々な原因で乱れると、先に述べたような症状が生じます。

昔から「はらわたが煮えくりかえる」「断腸の思い」という言葉があるように、日本人は心と消化管の関係を経験から知っていました。心理的ストレスは腸管の緊張を高め、急性の下痢や、けいれん性の便秘につながります。

一方で、乳製品、アルコール、コーヒーで下痢をする人がいるように、食物による腸の化学的刺激でも、便通異常は起こります。生理周期に合わせて下痢になる人もいます。このように、すべてが心理的ストレスで説明されるわけではなく、心と身体の両面からみることが、過敏性腸症候群では大切になります。

また、クローン病や潰瘍性大腸炎(慢性の炎症性疾患)でも、過敏性腸症候群とよく似た症状がおきます。中年以上で、突然、便秘と下痢の交替現象が生じるようになった場合は、大腸がんである可能性も否定できません。以上により、過敏性腸症候群の診断には、必ず腸の検査をする必要があります。

過敏性腸症候群の特徴のひとつに、夜間の睡眠中には腹痛や便意がほとんど生じない、という点があげられます。夜間に腹痛で何度も目が醒めるような場合は、他の病気である可能性が高くなります。また、過敏性腸症候群と診断された後でも、特に中年以上の人で痛み方や便通異常の様子が変わった時は、別の異常が発生していることもあります。

持病と考え、医療機関を受診しない人が多いのが特徴ですが、改善が期待できる病気です。特に、男性には、下痢と腹痛が中心の過敏性腸症候群に、新しい薬が使えるようになりました。

お腹の気になる症状が続いたり、症状が変化した場合は、一度、医療機関を受診しましょう。