奈良県医師会 竹村 潔
人間の体には、進化の過程の中で獲得した色々な仕組みがあります。例えば、体内に塩分を保持しようとする性質は、生命が海で誕生した名残でしょう。さらに、長い飢餓の時代を経て、摂取したカロリーを効率よく脂肪にして体内に貯め込む仕組みも獲得しました。かつて生き延びるために都合の良かったこれらの仕組みが今、逆の効果をもたらしています。余分な塩分やカロリーは高血圧や糖尿病、高脂血症等の元凶になります。ひいては、心筋梗塞、脳卒中を引き起こします。
人間は過剰な塩分やカロリーから上手に体を守る性質を持たないばかりか、生き延びるために取り込もうとする本能が体の中に織り込まれています。そして今や健康を保ち、生き延びるためには、自分の欲望を抑えなければならない時代となってしまいました。
また、人体では常時、細胞分裂が起きていて、同時に遺伝子が複製されるのですが、必ず一定の割合で、そのままではがん細胞になる作り間違いが起こります。この間違いを引き起こすのが、発がん物質と呼ばれるものです。常に修復する遺伝子が作り間違いを正そうとしますが、発がん物質が多すぎると間に合いませんし、長年繰り返すうちに、いつかは修復に失敗します。高齢になると、がんの発生率が高くなる理由です。
先進国の生活には、おいしい食べ物や、カロリーを消費せずに楽に移動できる交通手段など、今となっては人の体に害となる誘惑が満ちています。またタバコの煙を始め、日頃から様々な発ガン物質にさらされています。このように、生活の中で長年繰り返されることに発生の原因がある病気を生活習慣病といいます。
現代人は様々な誘惑に打ち勝ち、生活習慣病に立ち向かわなければなりません。しかし、厳密すぎると窮屈な生活となり、かえってストレスのもとになります。また、現代社会ですべての発がん物質を排除することは、事実上不可能です。ある程度のところで折り合いをつけ、自分のできる範囲で生活習慣病に立ち向かう知恵と余裕が必要です。
次回は、予防のお話です。