奈良県医師会 竹田 洋祐
例年、夏場には飲食物が原因で、腹痛や嘔吐(おうと)、下痢(げり)の症状を起こす人が増加します。
コレラ、赤痢のような腸管感染症は、昭和40年代に急激に減少しましたが、細菌性の食中毒の発生数は変わっていません。細菌が繁殖しやすい夏場には発生が多く、注意が必要です。
細菌のなかでも、生肉や生焼けの肉類だとか、卵系統のものを食した場合には、サルモネラ菌が原因となることが多くあります。また海鮮類では腸炎ビブリオが原因となり、さらに鶏料理ではカンピロバクターという菌が原因となることが多いとされています。
黄色ブドウ球菌の場合、調理した人の手から食品に入った菌が食品のなかで増殖して毒素を産生することから、その毒素を含んだおにぎりや弁当を食べてしまうことによって発病します。
食後30分、1時間と、発症するのが非常に早いことが特徴で、発熱することはまれです。
以前に集団発生した腸管出血性大腸菌(O-157など)では、いったん感染したあと、菌がヒトの腸管内で毒素を産生することが問題です。
最初は、いわゆる腹痛・嘔吐・下痢といった急性胃腸炎の症状なのですが、だんだん血便が出て、1週間くらいたって下痢が治まったころに尿毒症を発症することもある、非常に恐ろしい病気です。
O-157などに特徴的な点は、熱がなくても非常に腹痛が強く、血便を来たすということです。
いずれにしても、急性胃腸炎の症状など食後に体調不良を感じたら、かかりつけの医療機関を受診しましょう。必要に応じて、便の細菌検査や、嘔吐・下痢による脱水に対する点滴などの治療を受けることになります。
食中毒の予防には、調理など食品を扱う時に、つぎの3点を踏まえて対処してください。
- 調理器具や手指を清潔に保ちましょう。
- 調理後は、早めに食べましょう。
- できたら、加熱することが肝要です。大半の細菌は、70℃以上で速やかに死滅します。また、5℃以下ではほとんど増殖しませんが、冷蔵庫の過信は禁物です。
これらの性質について、よく知っておくことが大切です。