腸が腐る病気

奈良県医師会 岡村 隆仁

上腸間膜動脈血栓症(じょうちょうかんまくどうみゃくけっせんしょう)とは、小腸や大腸に栄養を送る比較的太い動脈がつまって、小腸の大部分と大腸の一部が腐ってしまう、大変やっかいな病気です。何の前触れもなく、突然に起きることが多く、しばしば救急外来で遭遇します。

まず、予防がとても大切です。脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞と同じように、原因は動脈がつまることであるため、動脈硬化や不整脈のある高齢の人に起こりやすいことが特徴です。心当たりのある人は、特に注意してください。

予防としては、水分をたくさん取って、脱水にならないようにしましょう。また、かかりつけの医師と相談し、血が固まりにくくなる抗凝固剤という薬を内服することも有効です。さらに、不整脈の治療もしておいた方が良いでしょう。

不幸にしてこの病気が発症した場合、動脈がつまって、数時間経過すると、小腸や大腸が腐(くさ)ってきます。

症状としては、早い段階で、腹部全体に激しい腹痛を感じます。さらに腐った腸管から毒素が出てきて、ショック状態を起こします。そして急速な経過で、生命に危険が及んでくるのです。

治療のためには、早期発見が非常に重要です。高齢者に激しい腹痛がある場合は、すぐに病院を受診することをお勧めします。

この病気は、ドップラーエコーという検査や造影剤を使ったCT検査で、比較的かんたんに、また確実に診断がつきます。ごく初期のものであれば、血管を造影しながら血栓を溶かして治す方法もあります。しかし、通常は、開腹手術が必要となり、腐った腸管を大量に切除しなければなりません。

さらに少しでも治療が遅れると、全身に毒素が回って、命を落としてしまいます。なんとか命を救うことができても、小腸が少ししか残らないので、水分や栄養をいかに確保するかが、大きな問題となります。この状態は「短腸症候群」と呼ばれています。直接、静脈から栄養を与える中心静脈栄養という方法などが必要となり、生活に制約が生じる場合もあります。

このように大変恐ろしい病気ですが、予防法や早期発見の重要性をよく理解して、自分自身だけでなく、ご家族の命も守ってあげてください。