奈良県医師会 酒井 啓
骨粗鬆(そしょう)症は、骨の量が減って骨の内部がスカスカに変わってしまい、骨折を起こしやすくなった状態です。
高齢者の骨折は寝たきりになる原因の上位で、寝たきりは肺炎など生命に関わる合併症を起こしますから、いいかえると骨粗鬆症は人の寿命にも影響を及ぼすことになります。
実際、骨粗鬆症で背骨を圧迫骨折した高齢女性の死亡率は、骨折をしていない女性の2倍近くになるというデータもあることから、寝たきりを予防し、少しでも健康的な老後を送るためには、早期から骨粗鬆症の治療や骨折予防をしていく必要があると考えられます。
では、実際に骨粗鬆症による骨折を防ぐことはできるのでしょうか?
検査で比較的早い時期に骨粗鬆症と診断されても、「老化で骨はもろくなるのだから、骨粗鬆症の治療は意味がない」とか、「身長が縮んできたけれど、痛みなどはないので、薬を飲み続けるのはいやだ」と、治療を放棄してしまう人が時々おられます。しかし、高齢者人口の増加にもかかわらず、実際には骨折の発生件数は減少しているようです。その理由の一つには、骨粗鬆症の知識の普及と骨折の予防対策が進んだことが挙げられるでしょう。
また、骨粗鬆症治療に効果が高い薬剤が開発され、治療に用いられてきていることも、骨折の予防に役立っていると思われます。
近年、「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」という概念が提唱されています。これは、高齢者の骨・関節・筋肉など運動器の機能の老化による生活の自立度の低下を早期に発見して対処するための評価基準です。片足立ちで靴下がはけるかなど簡単な5つのチェック項目によって、運動機能の変化を判断できます。
メタボリックシンドロームと同様に、ロコモに該当する人を早期に発見して治療していくことで、将来の介護の必要性を低下させ、寝たきりを予防していくことができます。
骨粗鬆症はロコモティブシンドロームの大きな原因の一つであり、これを治療することは、将来の生活の質を維持していくために非常に大切だと言えるでしょう。
来週の木曜日は、骨と関節の日です。自分の骨の丈夫さを知り、適切な治療を早めに開始することが大切ですので、不安のある人は一度かかりつけの医師に相談してみてください。