バセドウ病の放射線治療

奈良県医師会 御前 隆

バセドウ病は、甲状腺(こうじょうせん)という、首の前にある内分泌臓器の働きが活発になりすぎる病気です。目の玉が飛び出す病気としての方が有名ですが、治療が必要なほどの眼症状が出る人はごく一部です。甲状腺が出すホルモン(甲状腺ホルモン)はからだ全体の新陳代謝の調節にかかわっているため、多すぎると暑がりになる、脈が速くなる、体重が減るなど、さまざまな症状が起こります。

治療法として、日本では抗甲状腺剤(こうこうじょうせんざい)と呼ばれる、甲状腺の働きをおさえる薬を一定期間内服する方法が主流ですが、手術や放射線により、甲状腺の体積を減らして治す方法もあります。放射線治療と言っても、ここでお話するのは「からだの中から」治療するやり方です。

甲状腺ホルモンはヨードを原料にして作られるため、甲状腺は食べ物に含まれるヨード分を取り入れて働いています。この性質を利用して、ヨードの一種で放射線を出すもの(放射性ヨード)を取り込ませて甲状腺の細胞を壊し、体積を減らそうというわけです。抗甲状腺剤治療に勝る点としては、効果が確実なこと、じんま疹などのアレルギー系の副作用がないこと、1回カプセルを服用するだけでよく、毎日続ける必要がないこと、などが挙げられます。短所は、この治療ができる病院が限られることです。放射性ヨードを使うためには、法律で定められた設備や専門的な管理体制が必要なためです。

放射性ヨードが効きすぎると甲状腺が弱り、からだが必要とする量の甲状腺ホルモンが作れない状態(甲状腺機能低下症)になりますが、その場合には、ホルモンを錠剤にした薬で簡単に補うことができます。

また、放射性ヨードのカプセルを服用した直後の2、3日は、壊れた甲状腺細胞から出てくるホルモンの過剰状態が一時的にひどくなることがあります。その影響で、糖尿病や心臓病をお持ちの方はそのコントロールが悪くなることもありますので、かかっているお医者さんとよく相談のうえ、一番ふさわしいバセドウ病の治療法を選んでください。