心臓震盪

奈良県医師会 岩井 務

心臓震盪(しんぞうしんとう)とは、胸部に衝撃が加わったことにより心臓が停止してしまう状態です。

多くは、スポーツ中の健康な子どもや若い人の胸部で、胸骨や肋骨が折れたり、心臓の筋肉が損傷するような強い衝撃ではなく、心臓の真上あたりの部位に、子どもが投げた野球のボールが当たる程度の弱い衝撃を受けたことで起こるのですが、あまりよく知られていません。

心臓震盪は、衝撃の力によって心臓が停止するのではありません。心臓の動きの中で、あるタイミングで衝撃が加わった時に、心室細動(しんしつさいどう)と言って、危険な不整脈が発生することが原因だと考えられています。

アメリカでは、2002年に128件の心臓震盪が報告されていますが、約70%が18歳以下に起こっています。子どもは発育過程にあり、胸郭がまだ軟らかいので、前胸部へ加わった衝撃が心臓に伝わりやすいのだと考えられています。

発生状況を見ますと、約60%が野球やソフトボール、アイスホッケー、ラクロス等の球技や、アメリカンフットボール、サッカー等の身体が接触するスポーツにおいて発症しており、他は金属バットやこぶし、ひじ、ひざが胸部に当たるとか、しつけとしての体罰等、日常生活のなかで起こっています。

予防法としてはまず、野球の場合、胸部を保護するプロテクターが野球用品メーカーから販売されています。他のスポーツでも、胸部に衝撃が加わる可能性があるなら、胸部プロテクターの装着を考慮すべきでしょう。打球を捕球する際も、「ボールを胸で受け止めろ」というような指導方法を見直すべきかもしれません。

また、一時期「失神ゲーム」と称する、胸をついて相手を失神させる遊びが流行っていましたが、これは極めて危険な行為であり、このような遊びを見つけたなら、即刻、やめさせるべきです。

この心臓震盪が発生することは稀ですが、不幸にも心臓震盪となった場合は、119番通報とAEDの手配を周囲の人に頼み、直ちに心肺蘇生(心臓マッサージ)を開始しなければなりません。