大腿骨近位部骨折

奈良県医師会 門野 文彦

高齢になった方が足もとをすくわれて転び、痛みで起きあがれない時、大腿骨(だいたいこつ・太ももの骨)が股(こ)関節のところで折れていることがあります。これを「大腿骨近位部(きんいぶ)骨折」と呼びます。

全国で、年間に約十万人が受傷しています。奈良県では、もろもろの報告を合わせると、年間に千数百人にもなると類推されます。毎日四人ぐらいの人が受傷していることになりますが、女性が大変多いようです。

この骨折が増えた原因としては、皆さんが長生きされ、高齢者が多くなったことですが、潜在的に骨粗しょう症になっていること、生活様式が洋風化したことなどもあげられるでしょう。立ちしゃがみの動作が日常生活に少なくなって、知らずしらずのうちに筋力が低下しています。また、年をとってバランス感覚も鈍くなり、反射動作が衰え、転びやすくなっていることも考えられます。

この骨折の恐いところは、寿命に大きく影響することです。持病も多い年代ですので、寝こんでしまうと、全身に及ぼす影響が大きいのです。一年で受傷者の約二割の人が亡くなるというデータもあります。骨折しない人に比べ、余命が平均で約半分になるという研究もあります。

こうしたことを避けるため、手術治療で素早く骨折部の修復を図ります。骨折部を釘で固定したり、人工骨頭(こっとう)に入れ替えたり、時には人工関節にそっくり置き換えたりして、まず立ちあがれるようにします。そして、直ちにリハビリをし、一日でも早く歩けるようにして、社会復帰を目指します。

それでもこの骨折の後、二割以上の人が歩くことができなくなっています。その他にも、認知症や寝たきりになるなど、骨折の影響は重大です。

まず、日頃から身体をよく動かして関節を和らげ、筋肉を衰えさせないこと、なんでもよく食べ、特にカルシウムとたんぱく質の補給に気を配りましょう。詳しいことは主知医にご相談ください。転ばないように気をつけましょう。