加齢黄斑変性

県医師会  大萩 豊

加齢黄斑変性は欧米では中途失明原因の第1位で、日本でも増加傾向の眼底の病気です。女性よりも男性に多く、50歳以上の人の約1%にみられると言われ、高齢になるほど多くなります。
黄斑とは眼底の光を感じる網膜の中心部、直径2mm程の部位です。小さい領域ですが、障害されると視野の中心が見えなくなり、見ようとするところが見えません。緑内障という病気でも視野が欠けて見えにくくなりますが、こちらはかなり進行しないと自覚症状はありません。

加齢黄斑変性の症状は一番見たいところが見えにくくなります。中心が暗いような見え方や直線がゆがんで見えるようになります。両眼で見てると気付かないことも多く、まずは片眼を隠してチェックしてください。
このような症状があっても加齢黄斑変性とは限りません。眼科では通常目薬で瞳孔を開いて眼底検査を行います。黄斑の病気にはOCT(光干渉断層計)検査が非常に有用です。眼底写真を撮るような機械で、数秒間の計測で網膜の拡大した断層画像を得ることができます。CTとよく似た名前ですが、放射線に被爆することはありません。

加齢黄斑変性の詳しい原因は分かっていませんが、たばこが大きな危険因子であることは多くの研究で確認されています。ビタミンCやEなどの抗酸化ビタミンは加齢黄斑変性を抑える作用があると言われています。また太陽の光に含まれる青や紫の光は黄斑部の障害を起こしやすく、サングラスや帽子で目を守ることは有用です。
加齢黄斑変性の中でも日本人に多い滲出型では、新生血管という悪い血管が網膜の外側の脈絡膜から発生します。新生血管は弱い血管で、出血を起こしたり、血しょう成分が漏出して黄斑部を障害します。また進行が早いのも滲出型の特徴です。

その新生血管の成長を促すVEGF(血管内皮増殖因子)という眼内の成分を抑える薬が2009年に国内で製造認可されたことは、加齢黄斑変性の治療において画期的なことでした。この薬は0・05mlという少量を眼球に注射するのですが、計画的に複数回行う必要があります。それでも注射の後には網膜のむくみが取れて出血が引くことが多く、この薬の登場によって加齢黄斑変性の治療は大きく進歩しました。
その他に加齢黄斑変性の治療として、薬剤を点滴してから専用のレーザーを照射するPDT(光線力学療法)、レーザー網膜光凝固術などがあり、病状によって治療方法を選択します。
またiPS細胞を用いた再生医療では、加齢黄斑変性によって傷んだ網膜の外側にある網膜色素上皮を再生医療で作成したものに置き換えることで、視力の改善を図ります。
いずれの治療も網膜のダメージが回復可能な時期に始めることが大切です。疑わしい症状があるときは、是非眼科を受診されるようおすすめします。