アナフィラキシーショック(ハチ刺されに注意しましょう)

県医師会 岩井 務

 日本ではハチに刺されて亡くなる人が、平成27年には23人発生しました。毎年、若干の変動がありますが、死亡者数はおおむね20人を前後しています。死亡者のほとんどはスズメバチやアシナガバチに刺された方ですが、ハチの毒が直接、心臓や脳に作用して死に至るわけではありません。刺された方の体がハチの毒に対して「アナフィラキシー」いう過敏反応を起こして、この反応が重症になると、かなり命の危険が生じます。

 アナフィラキシーの原因となる物質はハチの毒以外にもソバやピーナッツなどの食物抗菌薬、解熱鎮痛薬などの医薬品、ゴム製品などの日用品とさまざまです。アナフィラキシーは誰にでも起こるものではなく、一人一人で原因となる物質が異なっています。ですから、ハチに刺された周囲が腫(は)れて痛むだけの人もいれば、命を奪われてしまう人もいます。初めてハチに刺されたときは症状がなくても二度目に刺されたときにアナフィラキシーを起こすこともあります。一度でもアナフィラキシーを起こした人は、同じ物質が体に入ると、前よりもひどい症状となることが多いので、予防のためには原因となる物質を遠ざけることが一番大事です。

 ハチによるアナフィラキシーを起こしたことがある人は、ハチに刺されないようにしてください。どうしても近づく必要があるときは皮膚の露出をできるだけ控えてください。

 アナフィラキシーの主な症状は、皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状に大別されます。アナフィラキシーでほとんどの人に起こるのは皮膚・粘膜症状です。また、唇や舌などの粘膜が腫れてきます。多くは数分以内に呼吸器症状、循環器症状の少なくとも一つを合併します。

 呼吸器症状は息が苦しくなり、呼吸がしにくくなります。くしゃみ、咳や鼻水を伴うこともあります。喘鳴(ぜんめい)といって、喘息発作の時のようなゼーゼーという呼吸音が特徴です。

 循環器症状は、脈が早くなり血圧が低下するので、それにより動悸(どうき)やめまいがしたり、立っていられなくなったり、進行すると意識が無くなったりします。

 このような状態をアナフィラキシーショックといいます。ハチに刺されて亡くなる方は、刺されてから平均15分で心臓や呼吸が止まると言われていますが、数分で死に至ることもあります。

 もし、アナフィラキシーになってしまったら、まず、ためらわずに119番通報をして救急車を呼んでください。救急車が来るまでは、仰向けになって寝ているのが一番効果的です。足の下に枕などを入れて足を高くすると楽になることがありますが、急に起き上がったり、立ち上がったりするのは危険なので避けてください。

 これまでにアナフィラキシーを起こしたことがある人は、専門の医師を受診すると「エピペンⓇ」という自己注射薬を処方される場合があります。「エピペンⓇ」は自動的に針が飛び出す注射器に「アドレナリン」という特効薬が入っています。

 自分で打つのが原則ですが、患者が子供の場合は保護者や学校の先生が打ってあげる必要があります。いざという時に備えて「エピペン®」の使い方を練習しておいてください。

 これからは屋外で活動する機会が増えるシーズンです。ハチに刺されないように注意して、楽しい夏をお過ごしください。