県医師会 山下 圭造
インフルエンザの流行期に多くの患者さんから「先生は毎日かぜの人と接しているのに、どうして感染しないの?」と訊かれます。「早めのワクチン接種とうがい、手洗いは励行していますが、日頃からインフルエンザの海の中で働いているので、多少のウイルスが飛んで来ても応えないんですよ」と伝えています。ウイルスなどの感染や予防接種により一度得られた免疫が、繰り返しそのウイルスに接触する事により持続増幅することをブースター効果と呼び、そのウイルスに罹りにくい免疫力が維持されるのです。
近年、ブースター効果が低下する事によって発生患者数が増えている疾患がいくつかあり、その一つが帯状疱疹です。帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスというヘルペスウイルスの一種により引き起こされる病気です。このウイルスが初めて体内に侵入すると、水痘(水ぼうそう)を発症します。たいていの人が子供の頃にかかり、全身の発疹(水疱)と発熱を経て1週間で治ります。しかし、治癒した後もウイルスは完全には消失せず、神経節という神経細胞の集まる場所に移動して冬眠状態で復活の機会を狙っているのです。一旦は免疫の力で勝利し、神経節に幽閉したウイルスを眠らせ続けるためには、免疫力を高いレベルに維持する必要があります。しかし、人の免疫力は五十歳代を過ぎると急激に低下します。また、過労やストレスが重なったり、癌や糖尿病や膠原病を患ったり、ステロイドや抗がん剤を使用中の人も注意が必要です。
免疫力低下の隙をついて覚醒したウイルスは、神経節を脱出したのち神経細胞を傷害しながら増殖し、皮膚に到達して発疹を生じます。冒された神経の分布範囲に沿うように、体の片側に限局する痛みと水疱を生じるのが帯状疱疹の特徴です。これらの症状は2〜3週間で軽減しますが、しばしば帯状疱疹後神経痛という強い痛みが長期間続いたり、発病箇所によっては顔面神経麻痺や難聴、視力障害や排泄機能に異常を来したりすることもあり、その後の日常生活の質に大きな影響を与えます。
帯状疱疹は、水痘にかかった人は誰でも発症する可能性があり、50歳代で急に増え、80歳の人では3人に1人が発症していると言われています。しかも、2014年から小児に対する水痘ワクチンの定期接種が始まり、水痘にかかる子供が減る一方で、ブースター効果の低下による成人の帯状疱疹発症が増える傾向にあります。2016年、我が国でも帯状疱疹予防を目的とした水痘ワクチン接種が50歳以上の人に可能となりました。ワクチン接種により帯状疱疹に対する免疫力が維持され、発病率低下や重症化予防が期待できます。かかりつけ医療機関にご相談ください。