肝炎検診を受けましょう

県医師会   増井 一弘

 現在、肝癌は癌死亡者の男性で4位、女性で6位であり、その原因の80%以上はB型肝炎とC型肝炎のウイルス性肝炎の感染によるものです。B型・C型肝炎ウイルスは血液感染であり、平成6年頃までの輸血や血液製剤、刺青で感染し、またB型肝炎は、母子感染や性行為、昭和23年から昭和63年までの集団予防接種で感染します。

一般的にウイルス感染を生じると、持続的に肝細胞が破壊される慢性肝炎から、10年~30年をかけて次第に肝機能が低下する肝硬変を生じ、肝癌が発症します。そのため、肝癌の発症を減少させるには、肝炎ウイルス感染の予防、早期発見及び治療が必要になります。

B型肝炎予防として、平成28年10月から予防接種法に基づき小児に対してB型肝炎ワクチンが定期接種となりました。さらに現在、肝炎ウイルス治療は進化しており、B型肝炎では従来からのインターフェロンによるウイルス治療の他に、内服治療でウイルス量を減少させる核酸アナログ製剤を投与することで発癌抑制が報告されています。

また、C型肝炎では2~3ヶ月間の直接作用型抗ウイルス薬(DAA製剤)の内服治療で、副作用が少なく95%以上の確率でウイルス消失が可能となっています。現在、B型肝炎の潜在感染者数は約150万人、C型肝炎の潜在感染者数は約200万人と考えられていますが、依然、未受診者が多く、適切な診断・治療を受けていないと言われています。

現在、奈良県では肝炎総合対策として、治療促進のための環境整備、肝炎ウイルス検査の促進、診療及び相談体制の整備、肝炎に係る正しい知識の普及啓発、肝炎に係る研究の促進の5本の柱からなる対策を掲げています。奈良県の肝炎検診は、各市町村の健康増進事業としての指定医院での検診や保健所にて検診が可能ですが、平成27年度奈良県の肝炎検査の受診率は0・47%と報告され、全国平均の1・15%よりも低いレベルです。

現在、奈良県では肝炎検診には市町村からの補助があり、また治療の際、地域の保健所でB型肝炎、C型肝炎の治療申請手続きをすれば年収所得に応じて月々の自己負担が1―2万円に軽減されます。

肝炎ウイルス検診は生涯に一度の検診ですが、早期発見を行い、治療を受けることで肝癌発生を減少させることが出来ますので、県民の皆様は肝炎検診を受けることで肝癌の発症を減少させましょう。また、C型肝炎ウイルス排除に成功できた方でも、肝臓の線維化が進んだ症例では肝癌が発生することが報告されているため、肝炎ウイルス治療後も半年に一度は肝癌の検査を受けるようにしてください。