自然気胸

自然気胸といって、何らかの原因で肺から空気が漏れてしまい、漏れた空気によって肺が縮む疾患があります。

この疾患はまれに元気な患者が突然心肺停止に至るような急激な経過をたどったり、気胸を何度も繰り返して治りにくい状態になっていることもあります。今回は、これらのことについて述べていきます。

突然の息切れで発症する自然気胸は、大きく分けて原因不明な特発性と原因が分かっている続発性気胸に分けられいます。

続発性気胸はマルファン症候群、肺結核、肺気腫、肺癌、肺吸虫、胸膜中皮腫などです。特発性自然気胸は、肺にブラと呼ばれる直径1㎝程度ののう胞という小さな袋が破裂して起こる気胸で、肺の縮みが軽度の場合、安静のみで軽快することが多いです。肺の縮みが中等度の場合は、胸腔に漏れた空気を抜く脱気などの処置で軽快しますが、肺の縮みが高度の場合、入院して胸腔ドレーンといって、胸壁を切開し胸腔にチューブを挿入して空気を抜く治療をしなくてはいけません。胸腔ドレーンからの空気漏れが止まらない場合や、胸腔ドレーン治療後に再発を繰り返す場合には、外科的にこのブラを切除して空気漏れを治す手術が必要になります。

このように自然気胸は若い男性に発症することが多く、治療もほぼ確立していますが、注意しなくてはいけないのは、自然気胸の5~10%に発症するといわれる両側同時気胸です。

以前、息苦しさを訴え、外来まで歩いてきた若い男性患者さんがいました。胸部レントゲン写真を見ると両側同時気胸であったため、男性に歩くことを禁止して車椅子で病棟まで移動するよう伝えたところ、その移動中のエレベーター内で意識消失してしまいました。幸いエレベーターに乗り合わせた外科医が救急処置して大事には至りませんでしたが、両側同時気胸は重篤な状態に陥ることがあるということです。

もうひとつ、気胸で問題となっているのが、肺切除の患者さんに起こる気胸です。ご存じのように、肺がんの増加とともに肺切除の患者さんも増加の一途をたどっています。切除した肺と反対側の肺に気胸が起こると、著明な呼吸困難を発症し、ひどい場合は救急車を呼んでも病院に到着する前に心肺停止に至ることもあるので、肺切除後の気胸は急変に対して注意が必要です。

最後に、特殊な気胸についてご説明します。気胸を発症する男女の比率は9対1と圧倒的に男性に多いですが、女性に発症する月経随伴性気胸があります。この月経随伴性気胸は、文字通り月経とともに気胸を発症しますが、原因は子宮内膜の成分が肺や胸膜等の異なる所に発生し、月経に伴ってその成分が脱落するために気胸が発症すると考えられています。このような場合、手術を行っても原因が分からずに手術を終わっていることが多く、何度も繰り返し手術を受けている患者さんも少なくありません。月経に関連して胸が痛くなったり、息苦しくなった場合は専門医の受診をお勧めします。