みなさんはCOPDという病気を聞いたことがありますか? COPD、日本語では慢性閉塞性肺疾患ですが、長くて覚えにくいですね。落語会の大御所、桂歌丸師匠がCOPDにかかっていたことは良く知られています。閉塞とは、特に息を吐くときに気管支が狭くなる(息を吐くのに時間がかかる)ことです。そのため運動中に呼吸が速くなると、狭い気管支を空気が無理に通ろうとして「ゼエゼエ」してきます。
肺の構造は空気の通り道(気管支)と、酸素を取り込むための末梢の細かい網目(肺胞)の二つに分けられます。「肺気腫」は肺胞が有害ガスによって徐々に溶けていく病気、「慢性気管支炎」は有害ガスによっておこる気管支のやけど(炎症)です。COPDはこの肺気腫と慢性気管支炎を合わせたものです。有害ガスは以前の日本では大気汚染もかなり関与しましたが、現在では原因はほぼタバコと言えます。初期症状は咳と痰(たん)で息切れはあまり感じません。この時期では「かぜ」と診断されることもあり、桂歌丸師匠も当初そのように言われていたようです。続いて体動時の息切れが出現します。軽症では坂道を上るときに息切れ、中等症では平地歩行で息切れ、重症になるとトイレに行くだけで息切れ、という具合です。また息切れが強くなると、外出しない→足腰が弱る→筋力が低下し、やせてくる→さらに外出しなくなるという悪循環となり、さらに重症の方では酸素吸入が必要になってきます。我が国で現在、在宅酸素療法(家庭で酸素吸入)を実施中の方は、約16万人とされていますが、その半数がCOPDの患者さんです。
COPDは世界的にも増えています。理由の一つは人口の高齢化です。COPDの多くは60歳位から症状が出始めますので、平均寿命が60歳程度であった時代には余り問題にはなりませんでした。二つめは喫煙率の高さです。2018年のたばこ産業の調査によると日本成人男性の平均喫煙率は27.8%、成人女性は8.7%ですが、40歳代に限ると男性35.5%、女性13.6%です。40歳代の喫煙者は喫煙習慣が身についており、この方々から20年後に相当数のCOPDが発症すると考えられます。特に女性は男性よりも明らかにタバコの悪影響を受けやすく(意外と知られていません)、長寿ですから将来大きな問題になります。三つめは大気汚染と言えるでしょう。日本では少なくなりましたが、お隣の中国では深刻な問題となっています。
治療の第一は、なんといっても禁煙です。喫煙による肺機能の低下は、軽症から中等度の頃に進行が速く、症状が軽いうちに禁煙しましょう。禁煙により咳や痰は驚くほど減り、息切れも楽になります。その次は肺炎予防です。COPDの人は肺炎にかかりやすく、治りにくい(命取りになりかねない)のです。普段からうがい、手洗いを行い、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種をしておきます。三番目は気管支拡張剤の定期吸入です。吸入治療により肺機能は少し改善します。数値は少しですが、同じ作業をしても楽に感じるようになります。この記事を読んで心当たりのある方は、ぜひ一度医療機関にご相談ください。