大萩 豊
白内障手術は国内で年間150万件ともいわれ、すべての外科手術の中で最も多く行われている手術です。白内障とは目の中にある水晶体というレンズが徐々に濁ってきて、見えにくくなるものです。原因としては、大部分は加齢によるもので、高年齢の人程多くなります。他の原因として外傷によるもの、糖尿病、アトピー性皮膚炎、ステロイド薬などの副作用によるもの、生まれつきのものなどがあります。
白内障の症状は目がぼやける、まぶしいなどがありますが、「眼鏡が合わなくなった」と感じることが多いものです。眼科を受診する前に、眼鏡を新しく作られていることも多く、見え方がおかしいなと感じたら一度眼科を受診してください。
150万件といっても一体どれほどの人が白内障手術を受けているのでしょうか。奈良県では「元気な高齢者の秘訣を探る」として始まった研究「藤原京スタディー」の中で眼科健診を行いました。この研究で2900人の健診を行った結果、70歳以上の全体で24.2%の人が白内障手術を受けていました。さらに80歳以上では41.7%、85歳以上では61.5%の人が白内障手術を受けていることがわかりました。
またこの研究では認知機能の健診も行われました。その結果、視力が良好である人は認知症が5.1%であるのに対して、視力が不良な人は13.3%と高くなりました。つまり視力が不良な人は認知症のリスクが2.9倍高いことがわかりました。
白内障手術で認知症を防ぐことができるとまでは断定できませんが、視力が改善することで生活の質が改善します。
それでは白内障の手術はいつ受ければ良いのでしょうか。眼科では視力や水晶体の濁り具合、お一人お一人の生活環境、手術に対するご希望を総合して判断します。お車の運転をされる方は眼鏡を新しく作っても、視力検査で運転免許の更新ができなくなれば、手術の適応となることが多いものです。
最近は白内障手術を日帰りで行う施設が多くなりました。入院で行う手術も、日帰り手術も手術のやり方は同じです。日帰り手術も術後の診察、通院は必要ですが、無理なく通院できて、持病のない方は日帰り手術を選択してもよいかもしれません。
実際の手術は局所麻酔で行います。小さい切開から濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し、人工の眼内レンズを入れます。手術時間は15~20分くらいが多いですが、目の状態によって異なります。
通常使用する眼内レンズは単焦点眼内レンズといって、一つの距離にピントが合います。人の顔を眼鏡なしで見えるようにレンズを合わせた場合は、近くの細かい文字が見えません。いわゆる老眼と同じ状態で、近くは老眼鏡をかけてピントを合わせます。
それに対して多焦点眼内レンズというレンズでは、光を遠方と近方に振り分けることによって二つの距離にピントが合うようになります。術後は約9割の方が眼鏡なしで生活されていますが、見え方のシャープさが少し劣り、暗いところでくっきり感がやや落ちるといわれています。多焦点眼内レンズの手術は健康保険適応外で、先進医療という枠組みで行われています。また負担額は病院、医院によって異なります。