間質性肺炎

奈良県医師会 山下圭造

 

私達が呼吸をする時に鼻や口から吸い込んだ空気は、気管や気管支を通り約3億個にも分かれた肺胞という小さな部屋に到達します。それぞれの肺胞は「肺実質」と呼ばれ、昼夜休むことなく酸素と二酸化炭素のガス交換が繰り返されています。これらの肺胞同志を区切る隔壁は「肺間質」と呼ばれ、毛細血管や支持細胞などが分布し、取り入れた酸素を体内に運搬したり、肺の構造を保つ役目をしています。

単に肺炎という場合、実質性(肺胞性)肺炎を指します。体内に侵入した病原微生物(細菌・マイコプラズマ・ウイルスなど)が肺胞内で増殖して炎症を起こしたもので、急激な発熱と全身倦怠感が出現し、咳や痰や呼吸困難を伴います。高齢者や基礎疾患を有する人では重症化しやすく、早めの受診や肺炎球菌ワクチンの接種が大切です。

一方、肺間質に炎症を起こす間質性肺炎の原因は多岐にわたります。膠原病(関節リウマチや強皮症など)などの自己免疫病に伴うもの、アスベストなどの粉塵やカビ・羽毛などを長期に吸い込んだことによるもの、抗がん剤などの薬剤や放射線治療によるものなどが知られています。しかし、原因が特定できない場合が多く、この場合は特発性間質性肺炎と呼ばれています。

 

間質性肺炎では咳や軽い動作での息切れが徐々に、しかも進行性に増強します。発熱や痰を伴わないことが多いため、早期には医療機関を受診せずに様子を見る人が多いのが現状です。しかし、病状が進行するとやがて酸素の取り込みや運搬能力が低下するばかりでなく、肺の構造自体が破壊されて回復できません。肺は本来空気を吸排する弾力性に富んだ臓器ですが、炎症の進行に伴い徐々に硬くなり(線維化と言います)、肺線維症とも呼ばれます。

診断のためには胸背部の聴診(捻髪音(ねんぱつおん)というマジックテープを剥がすような音が特徴)、呼吸機能検査(肺活量の低下)、胸部X線検査(肺全体がぼやけたようなスリガラス様の影)などを先ずは受けます。このような普段の健康診断にも含まれるような検査でも所見が認められることが多く、さらに詳しい精密検査が必要な場合には専門医療機関に紹介してくれるでしょう。

繰り返しますが、間質性肺炎は慢性的に、しかも進行性に進む病気です。しかも一旦肺の構造が壊れると治療をしても元には戻りません。肺の弾力性が比較的保たれている早い段階での受診と治療開始が大切です。長引く咳や息切れを自覚する人はかかりつけ医にご相談ください。