奈良県医師会 林 雅弘
『健康寿命』を知っていますか? 2000年に世界保健機関(WHO)が「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を健康寿命と定めました。その後、寿命を延ばすだけでなく、いかに健康に生活できる期間を延ばすかに関心が高まっています。2016年の日本の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳で、日常生活に制限のある「健康ではない期間」(平均寿命と健康寿命の差)は男性8.84年、女性12.35年と発表されています。
少しでも長く健康に過ごすには、歩くことが大事と言われていますが、私たちは、毎日どれくらい歩いているのでしょうか? 2017年の日本人の1日あたりの平均歩数は男性が約7,000歩、女性が約6,000歩で、過去10年間で約500歩減少してきていると言われています。そのため厚生労働省は「健康づくりのための身体活動基準2013」で今よりもプラス1,000歩を目指して運動することを勧めています。
しかし、歩こうと思っても、長く歩き続けることができなくなる病気があります。その一つに腰部脊柱管狭窄症という病気があります。腰部脊柱管狭窄症は、加齢などで背骨が変形したり、脊柱を構成する椎骨と椎骨の間にある椎間板が膨らんだり、脊柱の後方にある椎弓と椎弓の間の黄色靱帯が厚くなって神経が通るトンネル(脊柱管)が狭くなり神経が圧迫される病気です。この病気は稀ではなく、和歌山県での1,000人以上の大規模の疫学調査では有病率は男女ともに10%程度であることが判ってきました。これを日本の年齢別人口統計に当てはめると、日本全体での有病者数は約600万人と推定されています(男性300万人、女性280万人)。
腰部脊柱管狭窄症のもっとも特徴的な症状は『普段はなんともないが、立っていたり歩いたりすると足がしびれて歩きにくくなるが、少し前かがみになったり腰掛けて休むとまた歩けるようになる』という間欠跛行です。そのため長い距離を続けて歩くことができなくなります。さらに歩行速度の低下、立ち上がり能力や立位バランス能力も低下すると言われていて、立位歩行能力全般に影響を及ぼします。毎日の生活では、歩く、階段を昇り降りするといった日常生活動作(ADL)のみならず、炊事、洗濯、買い物、旅行といった手段的日常生活動作(IADL)にも支障をきたすようになります。
このように腰部脊柱管狭窄症は、歩くことが困難になっていく病気で、ひいては健康寿命を低下させていく病気です。そのため『しばらく立っていたり、歩いていたりすると太ももからふくらはぎやすねにかけてしびれたり痛くなる。休むと楽になる』といった症状がある場合は、かかりつけ医や整形外科医に相談してみてはいかがでしょうか?