果物による口腔アレルギー症候群 ―花粉症との関連性について―

奈良県医師会 井上孝文

 最近、果物によるアレルギーの存在が広く知られるようになり、自分もそうではないかと心配して医療機関を受診する患者さんが増えているように思います。果物アレルギーには、摂取後にじんましん、呼吸困難、嘔吐、血圧低下など全身に症状がでる「即時型」と呼ばれるタイプと、口やのどに限局してかゆみや違和感などの症状が出る「口腔アレルギー症候群」と呼ばれるタイプがあります。今回は主に口腔アレルギー症候群について述べてみたいと思います。みなさんはリンゴやモモなどの果物を食べて、口の中やのどがかゆくなったことはありませんか?

消費者庁がまとめた「平成27年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」の中の「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」によると、食物を摂取後60分以内に何らかの症状が出て医療機関を受診された方の中で、果物が原因であったものの頻度が5.5%と記載されています。5.5%と聞くとあまり多くない印象を受けますが、乳幼児に多い鶏卵・牛乳・小麦などによる即時型アレルギーを含めた全体の中の頻度でありますので、5.5%でも決して少ないとは言えないでしょう。実際、年齢別に原因食物の頻度を見てみますと、果物は7~17歳で11.3%(第3位)、18歳以上で17.2%(第3位)、さらに新規発症例だけに限ると3~6歳で14.5%(第2位)、7~17歳で22.5%(第1位)、18歳以上で19.9%(第2位)となっていますから、幅広い年齢層において果物が主要な食物アレルゲンの一つであることは間違いありません。

さて、果物による口腔アレルギー症候群は、もともと花粉症の人に合併しやすいことが知られています。これは、花粉および果物のそれぞれに含まれるアレルギー物質の構造が似ているため、免疫の交差反応を起こすことが原因と考えられています。つまり、花粉症の人が果物を食べた際に、花粉の成分が口に入ってきたかのように免疫のシステムが誤認してしまうわけです。具体的には、果物を口にした直後からくちびる・舌・のどなどに痒み・イガイガ感・腫れなどの症状がみられます。口腔アレルギー症候群の中で花粉症との関連性があるものについては、「花粉-食物アレルギー症候群」と呼ぶこともあります。

花粉-食物アレルギー症候群では、花粉症の種類によってアレルギーを起こしやすい果物の種類が決まっています。例えばカバノキ科(ハンノキ・シラカンバなど)の花粉症の人では、リンゴやモモ、サクランボなどバラ科の果物のアレルギーを起こしやすく、イネ科(カモガヤ、オオアワガエリなど)やキク科(ブタクサなど)の花粉症の人はメロンやスイカなどウリ科の果物に反応しやすいといわれています。また、スギ・ヒノキの花粉症の人は、果物ではありませんがトマトに反応することがあります。

口腔アレルギー症候群の対処法は、症状を起こす果物などの摂取を避けることが基本です。アレルギーを起こす物質は加熱すると作用が減弱するので、加熱処理されたジュースやジャムは一気に大量に摂取しなければ問題ありませんが、搾りたての生ジュースは少量でも症状が誘発されることがあるので注意してください。