小球性貧血と大球性貧血

奈良県医師会 大野仁嗣

貧血はヘモグロビン値(血色素量)によって診断します。成人男子は13 g/dl未満、成人女子は12 g/dl未満、小児や妊婦は11 g/dl未満が基準です。血液検査ではヘモグロビン値に加えて赤血球数とヘマトクリット値を測定し、これらの3つの値から平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)を計算します。MCV低値、MCH低値、MCHC低値であれば小球性・低色素性貧血、MCV高値、MCH高値であれば大球性・高色素性貧血、MCV, MCH, MCHCのいずれも正常値であれば正球性・正色素性貧血とよびます。簡単には、小球性、正球性、大球性に分類します。

小球性貧血の代表は鉄欠乏性貧血です。疲れやすい、動悸がする、息苦しい、顔色が悪いなどの貧血症状を自覚することもありますが、健康診断で指摘されるまで気付かないこともあります。鉄欠乏状態が長く続くと、爪がスプーン状に変形することがあります。血清鉄は低値、不飽和鉄結合能は高値、フェリチンは低値を示します。文字通り、鉄分が不足するために発症しますが、鉄分が不足している原因(=真の病気)をさがすことが重要です。胃や腸の病気ために出血が続いている可能性がありますので、便潜血検査や消化管の内視鏡検査を受けてください。女性は子宮筋腫等が原因になることもありますので婦人科を受診しましょう。一方、成長期の中~高校生も鉄欠乏性貧血をきたすことがあります。鉄欠乏性貧血の治療は、いうまでもなく、鉄の補給です。鉄分の多い食材を摂るように心がけましょう。鉄剤は軽度の消化器症状をきたすことがありますが、製剤には色々な種類がありますので、主治医とよく相談して自分に合ったお薬を見つけてください。

大球性貧血の代表は悪性貧血(「悪性」と名付けられていますが、がんではありません)です。ビタミンB12を消化管から吸収できなくなることが原因です。貧血症状に加えて、舌炎(舌のザラザラがなくなる)、味覚障害、食欲不振、神経症状、慢性胃炎などの多彩な症状を伴うことがあります。軽度の黄疸を認め、LDHが上昇し、ビタミンB12値は低下します。抗内因子抗体や抗壁細胞抗体が陽性になることがあります。骨髄検査では、赤血球だけでなく、白血球や血小板のもとになる細胞にも形態異常を認めます。胃切除後の貧血も悪性貧血に似ています。身体のなかには数年分のビタミンB12の蓄えがありますので、手術後数年を経て(忘れた頃に)発症します。悪性貧血の治療にはビタミンB12製剤の注射(筋肉注射)を行います。数回の注射で症状は劇的に改善しますが、注射は生涯必要です。

大半の貧血は正球性貧血です。感染症、慢性炎症、悪性腫瘍(種々の癌、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)、慢性腎不全、慢性肝疾患、内分泌疾患などに伴って発症します。これらの基礎疾患の正しい診断と治療が最も重要です。