奈良県医師会 田邉 洋
アトピー性皮膚炎の患者さんは多く、街中やテレビでもよく見かけますし、皆さんのお身内やご友人にもおられるのではないでしょうか。
アトピー性皮膚炎はうつりませんし、命に係わる病気ではありませんが、皮膚の赤みが続き、強い痒みのために仕事や生活で困っている方がおられます。
アトピー性皮膚炎の病態は、乾燥肌を主とした皮膚バリア機能の低下と、湿疹をはじめとするアレルギー性炎症と、頑固な痒みです。バリア機能の低下とは、皮膚の一番外側にある角質層を守る成分が少ないために傷つきやすく敏感になっているのです。バリア機能が低下した皮膚では、環境中のホコリやダニ、花粉などの何気ないものが付着して皮膚の過敏反応を起こします。それがアレルギー性炎症となり皮膚では痒みの強い湿疹となります。それを抑えるためには、塗り薬や適切な化粧品で保湿を続け、抗アレルギー剤や免疫抑制剤などの飲み薬や、抗炎症作用のあるステロイドや免疫抑制剤の外用薬を使用します。これらがアトピー性皮膚炎の大切な基本的治療です。しかし、それらの薬による副作用や不適切な使用が問題になることがあります。
近年アトピー性皮膚炎の反応を仲介するサイトカインという細胞間で働く物質が発見され、それらが痒みやさまざまなアレルギーの病気を悪化させる一因だとわかってきました。その作用を抑える生物学的製剤が新しい治療法として昨年から健康保険で使用できるようになりました。生物学的製剤は、体の中に本来ある顕微鏡でも見えないほど小さな抗体というたんぱく質を、バイオテクノロジーの技術で薬として製造して、それを患者さんの体に注射して投与します。
昨年1月から健康保険でアトピー性皮膚炎に使用可能となったデュピルマブという生物学的製剤は、今までの治療では効果がないアトピー性皮膚炎患者に適用です。現在は15歳以上の成人のアトピー性皮膚炎が対象です。副作用には角結膜炎や過敏症があります。ステロイドの塗り薬や飲み薬でみられた副作用は生じません。喘息のある場合は、今までの治療を急にやめないことが注意点です。2週間毎に受診して1本ずつ皮下注射をする薬で、当然、注射時の痛みはあります。また原価は1本8万円以上と高価な薬ですので、高額療養費制度を利用して補助を受けるほうがよいでしょう。本年5月からは、自分で注射をする訓練をして3ヵ月毎に受診することも可能となりました。
この新しい治療が実施できる施設は奈良では、アトピー性皮膚炎の治療実績のある医師がいる皮膚科に限られています。当院でも使用しておりますが、今までの治療では改善しなかった方が痒みが楽になり生活が改善し6ヵ月以上続けている方もいます。
最近の医学の進歩に伴いアトピー性皮膚炎の病気の研究が進み、新しい治療法の選択肢が今後も増えます。まだ完治するわけではなく小児のアトピー性皮膚炎には使えませんが、今までの治療で改善が乏しい成人のアトピー性皮膚炎の方は、新しい治療法について一度お近くの皮膚科にご相談ください。