奈良県医師会 植山 正邦
4つある心臓の部屋は上の2つを心房(しんぼう)、下の2つを心室(しんしつ)と呼びます。心臓は全身や肺に血液を送り出すポンプの役割がある左右の心室と、肺や全身の静脈からの血液を溜めて心室に送り込む左右の心房で構成されます。
心房細動は主に左心房に入る肺静脈から発生する高頻度の電気刺激が引き金になり、心房の筋肉の異常が加わって、心房が細かく震えて不規則な動きを繰り返して発生し(発作性心房細動)、次第に持続時間が長くなり(持続性心房細動)、慢性化する(慢性心房細動)不整脈です。
心房細動では心房の中の血液がよどんで固まりやすくなり、内面に血液の塊(血栓:けっせん)が出来て血栓が全身の血流に流されてしまうことがあります。血栓が脳の血管に詰まると突然、脳梗塞(心原性脳梗塞)になり、大きな梗塞を起こしやすく重大な後遺症を残すことがあります。
また心房の収縮が無くなり、不規則で速い拍動となる為に心臓の機能が2~3割低下し、加齢とともに心不全になりやすくなります。
高齢化に伴い心房細動は増加し、80歳以上では10%近くの方に見られます。かつて元スポーツ選手などの有名人が心原性脳梗塞を起こされ、マスコミで大きく報じられて世間で広く知られるようになりました。
患者さんは動悸、倦怠感、めまい、息切れや胸痛などを訴えられますが、中には症状の無い方もおられますので注意が必要です。
心房細動の治療は、心原性脳梗塞の予防のために血液をサラサラにする抗凝固薬を服用して血栓をできにくくしますが、これまではワルファリンという薬が使われてきました。ワルファリンはビタミンKを多く含む納豆や青汁などを摂ると効きにくくなるという不便さがありましたが、2011年以降に非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOACまたはDOAC)が発売されて抗凝固薬が使いやすくなりました。そして、同時に投薬により速くなった心拍をコントロールしたり、抗不整脈薬や電気的除細動で元の調律に戻す治療も行われます。また最近では根治療法として、複数の電極カテーテルを心臓に挿入して高周波電流等で心臓の内壁に焼灼巣を作って不整脈の電気回路を遮断し心房細動の発生を抑えるカテーテルアブレーションという治療を行う施設があります。
心房細動の原因となる病気は、以前には心臓弁膜症(弁膜症性心房細動)が多く見られましたが、最近ではそれ以外の患者さん(非弁膜症性心房細動)が多く、生活習慣病を背景とした方が大半を占めるようになりました。高齢の男性で特に高血圧や糖尿病のある方によく発症します。
特定健診や人間ドックで血圧が高いとか、血糖値が高いと言われた方は直ぐにかかりつけ医と相談して治療を始めましょう。尚、本年改訂された日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、75歳未満で合併症の無い方の治療目標血圧値が130/80 mmHg未満に引き下げられましたので、既に降圧薬を服用されている方はより厳格な血圧管理が必要になりました。