奈良県医師会 山下圭造
毎年9月は「がん征圧月間」です。
我が国では急速な高齢化にともない癌にかかる人の数は確実に増えており、今や日本人の2人に1人は癌にかかり、3人に1人が癌によって死亡すると報告されています。
①どうして癌になるのでしょう。
人間のからだは数十兆個の細胞が集まって出来ています。それぞれの細胞には、それぞれの役割や寿命があって常に細胞の分裂・増殖を繰り返しながら生命を維持しています。この細胞の分裂や増殖は無秩序に行われているわけではなく、アクセルに相当する信号とブレーキに相当する信号がバランスを取りながら管理されています。しかし、時にはアクセルとブレーキの踏み間違いが起こって細胞分裂の暴走が始まり、本来働くはずの自動停止システム(細胞自爆・アポトーシスと言います)が作動しない場合があり、癌が発生すると考えられています。最近、報道で問題になっている自動車事故と同様の事が我々の体内にも起こっているのです。
②どうしたら癌を防げるのでしょう。
癌の発生を招く最も大きな原因は年齢です。40〜50歳から癌にかかる人が急激に増加するため癌年齢と呼ばれています。さらに喫煙(直接・間接)、アルコールの過量摂取、放射線・紫外線への暴露、ある種のウイルスや細菌感染、食事(高塩分・高脂肪食)などが発癌のリスクを高めることがわかっています。日常生活の改善・節制により癌の発生を未然に防ぐことが大切ですが、リスクをゼロにする事は不可能であり、早期発見のためにはがん検診を受けることが重要です。
③早期発見が大切な理由
体内の正常な細胞を「A」とすると、その細胞から異常変異した癌細胞は「●A」のように外見上見分けがつきにくく、その上管理や制御の効かないテロリストの様な厄介な存在です。密かにアジトの中で仲間を増やして(限局癌)、徐々に周辺に(領域内癌)やがて全身に(遠隔転移)勢力を広げていくため自覚症状も少なく、日常診療での早期発見は困難です。癌治療の理想は「A」(一般市民)に被害を与えずに「●A」(テロリスト)を全滅させることであり、早期に発見できればアジトを強制的に撤去したり(外科手術)、ピンポイント攻撃(放射線療法など)が可能です。しかし進行癌では癌細胞が全身に広がるために「●A」を攻撃する薬(抗がん剤)を全身投与しますが、「A」にも重大なダメージ(副作用)を与えてしまいます。最近の医学の進歩により「● 」部分にターゲットを絞って攻撃ができる新薬(分子標的薬)が開発されて効果を上げていますが、現在まだ効果は限定的です。
最近のデータでは、いったん癌と診断された人の5〜6割、早期癌に限定すると8〜9割が癌を克服すると言われています。既に早期がんは治る病気になっているのです。早期発見のために年に1回のがん検診受診をお勧めします。