奈良県医師会 岩井 務
つつが虫病は、病原体(リケッチア)を有するツツガムシ(ダニの一種)の幼虫に刺されて、高熱や発疹などが出る病気です。日本のつつが虫病には、現在6種類の血清型が知られており、それぞれ媒介するツツガムシの種類が決まっています(表参照)。ツツガムシごとに媒介する時期が異なるため、ツツガムシの種類によってつつが虫病に感染する時期が異なります。
東北地方のある県では、患者の80%以上がフトゲツツガムシによって媒介されるKarp型つつが虫病であり、春のつつが虫病が全県的に多い状況です。しかし、最近になって秋のKwasaki型や春(一部は秋)のShinokoshi型つつが虫病が増加傾向にあるため、ツツガムシが活動する春から秋のいずれの季節でもつつが虫病感染する危険性が高いと言えます。
(表)つつが虫病血清型と媒介ツツガムシ種の関係
つつが虫病血清型 | 媒介ツツガムシ種 | 媒介する季節 |
Gilliam型・Karp型 | フトゲツツガムシ | 春(一部秋) |
Kato型 | アカツツガムシ | 夏 |
Kwasaki型・Kuroki型 | タテツツガムシ | 秋 |
Shinokoshi型 | ヒゲツツガムシ | 春(一部秋) |
ツツガムシに刺されると、必ずつつが虫病になるわけではありません。つつが虫病を媒介するのは特定のツツガムシ種で、そのツツガムシの中で病原体を持っているものは100匹中に1匹程度のごく少ない割合です。
また、ツツガムシは卵→幼虫→若虫→成虫という生活環境の中で、唯一幼虫の時期だけ野ネズミなどの動物の体液を吸います。この時期にヒトが偶然、病原体を持ったツツガムシに刺されることでつつが虫病になります。ヒトからヒトへ感染することはありません。
なお、ツツガムシの幼虫の体長は0.2~0.5mm程度ですので、肉眼ではよほど目を凝らさないと見つけることができません。
つつが虫病の歴史上の分類として、古典型つつが虫病と新型つつが虫病に分類されます。古く山形県・秋田県・新潟県などの地域で夏季に河川敷(最上川・阿賀野川・信濃川等)で感染する風土病で死に至る病として恐れられており、これはリケッチアを持つアカツツガムシに刺されて発症するもので、古典型つつが虫病と呼ばれており、春から夏に多く発症します。1950年頃から発生数は減少しています。
昭和23年(1948年)、富士山麓で演習中のアメリカ軍兵士が熱病に倒れ、診察の結果、タテツツガムシ媒介によるつつが虫病であることがわかりました。この件をきっかけにタテツツガムシやフトゲツツガムシなど、アカツツガムシ以外のツツガムシが媒介して発症するものが新型つつが虫病(非アカツツガムシ媒介性つつが虫病)として注目されるようになり、横浜市や房総半島、東京都伊豆七島、四国地方などで原因不明のとされていた熱病がこのタイプに該当することが判明しました。新型つつが虫病は、北海道を除く全国で発生が確認されており、古典型とは異なり、秋から初冬に発生が見られます。このよう2つの型で発生時期が違うのは、それぞれの活動時期の違いによるものと言われています。
次回は、つつが虫病の症状や対策などについて解説します。