蕁麻疹(じんましん)

奈良県医師会 井上孝文

 皆さんは、かゆみでお困りになった経験はありますか? かゆみが原因で大きな健康被害が出ることはありませんが、かゆみで集中力が低下して、勉強や仕事、家事などに影響が出てしまうことはあると思います。また、かゆみのためにイライラしたり、睡眠が浅くなったり、趣味を楽しめなくなったりする人もいます。このように、かゆみは生活の質を低下させてしまうことが問題だと思います。今回は、かゆみを生じる代表的な疾患である蕁麻疹について述べてみようと思います。

一般的な蕁麻疹は膨疹(ぼうしん:赤みを伴った限局性の皮膚の盛り上がり)が出没する疾患で、通常は強いかゆみを伴います。最初、小さな膨疹が現れたときは蚊に刺されたかのように見えますが、掻いたり刺激したりすると地図状に拡がったり、掻いたところが赤くミミズ腫れになったりします。次々に新しいものが現れたり消えたりしながら症状がしばらく続くこともありますが、個々の膨疹は24時間以内に消えてしまうのが特徴です。そのために夜中に蕁麻疹が出てつらい目にあったのに、次の日に医療機関で診察を受けるときには、跡形もなく消えてしまっていることさえあります。最近では、蕁麻疹が出たときにスマホで写真を撮っておいて、診察時にその画像を見せてくださる方もいらっしゃいます。症状を口で説明することは意外と難しいので、画像を残しておけばとても役に立つと思います。

蕁麻疹は、食物や薬剤が原因になることはよく知られていますが、細菌やウイルス感染なども原因になります。そのため風邪をひいたときにも蕁麻疹が出ることがあり、このようなときは風邪が原因なのか、使用した風邪薬が原因なのか判断が難しいです。また蕁麻疹は、皮膚を機械的にこすったり圧迫した所に出たり(機械性蕁麻疹)、温度の変化(温熱・寒冷蕁麻疹)、入浴・運動・精神的緊張などによる発汗(コリン性蕁麻疹)なども原因になることがあります。このようにいろいろな原因が知られている蕁麻疹ですが、実際の診療では原因が明らかにならないことの方が多く、いろいろな検査をしても手がかりすら得られないことも珍しくありません。しかし、原因がわからないままでも薬物治療を開始することはできますので、ひと通りの検査を受けてこれといった原因が見当たらなければ、原因の追究はほどほどにして、お薬でつらいかゆみを抑えましょう。原因を調べることはとても大切なことですが、それにこだわり過ぎて、かえってストレスが増すような事態は避けるべきです。

当然のことながら、食物や薬剤など蕁麻疹の原因が分かっている場合は、まずそれを避けてください。また、皮膚への機械的な刺激・圧迫、温度刺激、ストレスや疲労など特定の誘因で出る場合は、これらの誘因をできるだけ避けるようにします。通常の蕁麻疹はヒスタミンという物質が関与しているので、この働きを抑える抗ヒスタミン薬の服用が薬物治療の基本となります。抗ヒスタミン薬は眠気が起こることがあるので車の運転や危険な仕事をする人は気をつけなければなりませんが、最近では眠気が少ない薬も増えています。治療についてはかかりつけ医にご相談ください。