冬場の胃腸炎 ~ノロウイルス~

奈良県医師会 溝上晴久

 

毎年、寒い時期になると感染性胃腸炎の患者さんが増えてきます。その主な原因は、ノロウイルスによる感染です。ノロウイルスの感染力は非常に強く、わずか数十個のウイルスに感染しただけで発症します。感染の流行は11月頃より始まり、12月~1月にピークとなります。年間の食中毒患者数の約半分は、ノロウイルスによるものです。

ノロウイルスに感染すると、1~2日の潜伏期間を経て発症します。主な症状は、嘔気(おうき)・嘔吐(おうと)、下痢(げり)、腹痛などです。発熱は軽度で頭痛を伴う事もあります。
通常は、これらの症状が2日間程度続いた後、自然に回復していきます。ただし、高齢者や幼児の場合は、高度の脱水状態となり入院が必要となる事もあります。

また、ノロウイルスには多数の遺伝子型が存在するため、同じ人が複数の違った型のウイルスに感染することがあります。そのため、何度も感染する場合があります。
感染の原因は、ウイルスを含んだ食品を摂取する1次感染、感染者からの2次感染(人から人への感染)によるものがあります。

1次感染の原因としては、牡蠣(かき)などの二枚貝や井戸水などがよく知られています。
2次感染としては、下記①~③などがあります。

  • 感染者が調理した生野菜、生魚などの非加熱食品の摂取
  • 感染者の糞便、吐物から手指を介しての感染(ドアノブ、トイレの水栓蛇口、リモコンなど)
  • 吐物が乾燥化して空中に舞い上がり、それが口に入ることにより感染

特別な治療法は無く、ウイルスなので抗生剤も効きません。強い下痢止めはウイルスの排出を妨げるため、回復を遅らせることになるので服用しない方がよいと言われています。腹痛に対する痛み止めもあまり効きません。

下痢・嘔吐が原因で脱水症状になりやすいため、水分補給が一番大切です。水・お茶よりは、スポーツドリンクなどの電解質を含んだものの方が吸収が良く、人肌に温めて飲む事により腸管への刺激も少なくなります。
また、嘔気・嘔吐が強く、飲水が十分できない場合は、点滴による補液治療が必要となる事もあります。

感染してしまうとノロウイルスには根本的な治療薬がありません。とにかく、予防が大切です。1次感染を防ぐ方法としてはつぎの2点を心がけてください。

  • ノロウイルスは熱に弱いため、牡蠣などの二枚貝を食べる時は、出来る限り十分な加熱をする事が大切です。特に高齢者、幼児、体調の悪い方は生食を避けましょう。非加熱の井戸水、わき水の飲水も避けましょう。
  • 一般的な消毒にはアルコールを使用する事が多いですが、ノロウイルスはアルコールに対する抵抗性が強いため効果がありません。 感染の可能性があるまな板、包丁などの調理器具は次亜塩素酸ナトリウムの使用や十分な加熱消毒をすることが大切です。

一般のアルコール性手指消毒薬はノロウイルスには無効であるため、感染者は2次感染(人から人への感染)予防として、必ず石鹸を用いてしっかり洗浄してください。下痢症状がなくなっても、感染者の便には1週間~1カ月程度ウイルスが排出されている事があり、その間も感染予防の注意が必要です。
また、吐物などの処理をする場合は、マスク、手袋をして次亜塩素酸ナトリウムを使って作業をしましょう。

今年もノロウイルス感染の流行時期となってきました。みなさん、くれぐれもご注意ください。