奈良県医師会 松村榮久
便秘を訴える患者さんはとても多く、特に年配の方や若い女性には「毎日便が出ないとお肌に悪い」「体重が減らないのは宿便のせい」「すっきり出したい」などの理由で、市販の便秘薬を購入したり、他の病気で受診した外来診療のついでに「便秘薬をください」と求めたりする方がおられます。医師も忙しいとつい「ではお薬を」となりがちです。でも本当にそれで良いのでしょうか? まずは便秘かどうか、そして便秘の原因は、最後に治療薬について考えてみましょう。
便秘とは本来体外に排出すべき糞便を「十分量」かつ「快適に」排出できない状態のことで、排便回数の目安として1週間に3回未満の場合に便秘とします。さらに鹿の糞のようなコロコロの硬便、強くいきむ必要、4回に1回以上摘便、残便感、直腸の閉塞感の症状が複数あれば、慢性便秘と言ってよいでしょう。単に毎日排便がないというだけでは、便秘とは言わないのです。
慢性便秘の方は、まず生活習慣を見直すことが必要です。特に運動不足、朝食を摂らない、食物繊維不足、喫煙、飲酒は便秘の原因となります。糖尿病、甲状腺機能低下症は便秘になりやすい疾患です。また薬剤による便秘に気をつけます。特に抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンなど)、鎮咳剤(ジヒドロコデインなど)は総合感冒薬にもしばしば配合されていますが、便秘の原因になります。抗ヒスタミン薬はかゆみやアレルギー性鼻炎の治療薬としても使用されます。かぜを引いて食事が摂れず、寝込んでいるところに総合感冒薬を服用すると容易に便秘になるでしょう。
なお最近数ヶ月以内に始まった便秘の場合、大腸癌が原因のことがあります。大腸癌は50歳以上に多く(男性>女性)、部位は直腸〜S状結腸で7割を占めます。この部位の大腸癌の主症状が便秘・便柱狭小化(便が細くなること)・血便です。特にご家族に大腸癌の方がある場合は、注意が必要です。
最後に便秘治療薬について。慢性便秘は排便回数減少型と排便困難型に大別できます。排便回数減少型では糞便が大腸に貯留し、お腹の張った感じや腹痛などが生じます。排便困難型は直腸や肛門の排便機能の低下、あるいは高齢による腹筋力不足のため排便困難感や残便感が出現するものです。排便回数減少型では浸透圧性下剤(酸化マグネシウムなど)、刺激性下剤(センナ、センノシド、ピコスルファートなど)、その他多くの内服薬が使用できます。ただし刺激性下剤は長期間連日服用すると次第に効かなくなってきます。特に若い時から連用すると、薬の全く効かない難治性便秘となってしまい大変です。使用量を守り毎日の服用ではなく、なるべく2~3日に1回程度の頓服使用にしましょう。排便困難型では内服の便秘治療薬は効果が乏しく、座薬や浣腸、摘便が必要になります。このような方は、一度かかりつけの医師にご相談ください。