大腸がんの治療について―肝転移は治る―

奈良県医師会 岡村 隆仁

最近の医療の進歩により、大腸がんの治療が大きく前進しています。大腸がんの治療は、早期のがんは内視鏡で切除し、進行がんでも腹腔鏡(ふくくうきょう)で手術を行う時代になりました。さらに、手術の方法が楽になっただけではなく、以前では治療が困難であった肝臓に転移のある患者さんも、救命できる可能性が高くなってきたのです。

大腸がんの広がり方には、リンパの流れに沿うリンパ節転移と血管の中を通ってがん細胞が広がる血行性転移とがあります。今回は特に血行性転移について、お話しします。

血行性転移は、大腸がんのがん細胞が大腸の壁にある静脈の中に入り、まず肝臓に転移した後、肺に続き、全身へと広がっていきます。

数年前までは、この肝転移で非常に多くの方が命を落とされました。運良く転移が肝臓の片側に限局している場合は、肝臓切除手術で治せましたが、両側にばらばらと転移した場合には、あまり有効な治療手段がなかったのです。

しかし、新しい抗がん剤や遺伝子的に治療を行う分子標的治療の進歩により、多くのがん細胞を殺すことが可能になってきました。手術とこれらの薬物治療を組み合わせることにより、肝転移のある患者さんも救うことができるようになってきたのです。すなわち、薬物療法で可能な限り、がん細胞を殺し、生き残った転移巣を手術で除去してしまうという集学的治療を行います。この際、肝臓に転移した病巣が生き残っているかどうかも、重大な問題でしたが、MRIなどの検査の進歩もあって、徐々に確実に診断できるようになってきました。

実際に、30個以上も転移のある患者さんが治っていくのを経験した時、患者さんも医療者側も、決してあきらめてはいけないと実感しました。

医療は目々進歩しています。現在は治せない病気も、治療ができる日が来るかもしれません。私達医療者は、専門領域において、新しい治療法を習得する努力を続けていく義務があると考えます。