良性発作性頭位めまい症について

奈良県医師会 山本俊宏

 

私たちは日常生活で、座ったり立ったり横になったり、また歩いたり走ったり、様々な動作をしています。その運動は内耳の中の「三半規管、耳石器官」、目の「視覚器」、両手足や体幹の「深部知覚器」という3つのセンサーでバランス感覚を感じ調節しています。脳がこれらの感覚情報をコントロールすることでスムーズな運動を行うことができるのです。これらの感覚器や脳への経路のどこかで支障が出ると、めまいやふらつきが起こってしまいます。その原因には血流の障害、炎症、自律神経障害、心因性などがありますが、原因がよくわからないこともよくあります。

耳の構造は外側から外耳、中耳、内耳に分けられ、一番奥にある内耳は聴覚を感知する蝸牛、平衡感覚を感知する耳石器官と三半規管に分かれていますが、それぞれは骨の構造の中に内リンパ液という液体が満たされていて、器官同士は接続しており一つながりになっています。耳石器官は垂直方向の動きを感知する卵形嚢(らんけいのう)と水平方向の動きを感知する球形嚢(きゅうけいのう)とに分かれています。卵形嚢と球形嚢にはそれぞれ炭酸カルシウムでできた耳石があり、頭の傾きで耳石が動くことで「傾いている」ことを感知しています。三半規管は前、後、水平に分かれていて、頭の様々な回転運動で内リンパ液が流れ動くことで「動いている」ことを感知します。卵形嚢と三半規管の基部が隣接する位置関係にあります。

良性発作性頭位めまい症は寝起きや寝返りなど頭の位置を変えたとき、特に朝起きたときに起こるめまいです。グルグルと回る回転性めまいが多く、通常は数秒から1~2分で治まります。吐き気や嘔吐を伴うことがありますが、聞こえが悪くなったり、意識や言葉、運動の障害を伴うことはありません。

診断にはフレンツェル眼鏡という拡大鏡や赤外線カメラを用いて、様々な姿勢をとったときや頭を動かしたときの眼球の異常な振れ(眼振(がんしん)といいます)を観察します。このめまいの病態は卵形嚢の耳石が剥がれ落ち、隣にある三半規管に入って(横になっているときは、三半規管が卵形嚢よりも低くなります)溜まってくると、頭部の運動で耳石の破片が三半規管内で移動し内リンパ液の流動以外の余計な刺激が入力されることで発症すると考えられています。眼振の方向(右向きか左向きか、横向きか回旋性か)や眼振が出る頭位を参考に左右のどの半規管に耳石が溜まっているかを突き止めていきます。

耳石が剥がれ落ちやすくなる要因としては、加齢による耳石の老化、閉経や加齢に伴う骨粗しょう症によるカルシウム代謝の異常、頭部外傷での内耳への衝撃などが考えられていて、これらに入院などで長期間の寝たきりや、同じ姿勢で寝る癖、低い枕で寝る習慣、運動不足などで三半規管へ溜まりやすくなる要因が重なることで発症しやすくなるのではと考えられています。

約2週間程度で自然に軽快することもありますが、気分不良やめまいが強いとき、症状が持続する場合はめまいや嘔気を抑える薬物治療や、剥がれた耳石を溜まっている三半規管から卵形嚢に戻す頭部運動による理学療法を行います。これらの治療によりめまいは消失しますが、10~30%ぐらいの方は再発するといわれており、頻回に繰り返したり難治性の場合は手術治療を行う場合もあります。