奈良県医師会 久保 良一
「はしか」と呼ばれる麻しんですが、一歳から五歳までに多くみられるために、子供の病気と思っていませんか?
近年、高校生や大学生を中心に大流行して授業が休講となり、社会問題となりました。これは感染力が非常に強く、患者の咳やくしゃみにより、麻しんウイルスに感染するためで、免疫がないと、大人でも容易に感染します。平成十九年では、約三万人の成人がかかったと推定されています。
十八歳以上のはしかを「成人麻しん」と言います。症状は子供のはしかとほぼ同じで、発熱、風邪のような症状、目の充血のほか、口内の頬の粘膜に白い斑点や、身体に発疹などが現れます。
成人麻しんは重症化しやすく、最悪の場合には肺炎、麻しん脳炎などの合併症で死亡することがあります。また、妊娠中では流産や早産が起こりやすく、決して軽く考える病気ではありません。
予防は、麻しんワクチンの接種です。アメリカや韓国などでは、免疫力を高めるために、小学校入学前までに二回、接種することが要求されています。しかし従来、わが国では一回だけの接種であった上に接種率が低いために、予防効果が不十分でした。患者数は欧米に比べて極めて多く、今も「麻しん大国」「麻しん輸出国」との汚名で各国から批判されています。
そこで厚生労働省は、平成十八年から小学校入学前までの二回接種を自治体で始めました。そして平成二十年度からは、中学一年生か高校三年生相当の年齢時に、追加の麻しん風しん混合ワクチンの接種を五年間に限って行なっています。しかし、昨年の秋までは高校三年生のワクチン接種率が50%以下の自治体が多く、流行防止に必要な95%までには、大きな差がある現状です。
最近、麻しんの予防を求める大学が多くなり、なかには入学者全員に、ワクチン接種証明書の提出を義務づけた大学もあります。中一や高三の家族をもつ皆さん、重症化しやすい成人麻しんを防ぐため、また他の人にうつさないために、追加のワクチン予防接種を受けるよう勧めてください。
「麻しん輸出国」の汚名を晴らせるよう、麻しんの撲滅に対する国民の意識向上が大切です。