奈良県医師会 山下圭造
近年、乳幼児に対する予防接種は新たなワクチンが次々に定期接種に導入され、現在12種類の病気に対するワクチンが、いずれも90%以上の接種率で実施されています。一方、成人に対する定期接種には65歳以上の高齢者に対するインフルエンザと肺炎球菌ワクチンの2種類がありますが、最近の接種率はインフルエンザが約50%、肺炎球菌は約60%と報告されています。年齢を重ねるとともに体力や免疫力が低下して細菌やウイルスによる感染症にかかりやすくなるため、健康的な日常生活を維持するには「病気にならないように予防する」ことが重要です。今回は成人(特に高齢者)にお勧めするワクチンをご紹介します。
●インフルエンザワクチン
平成13年から65歳以上の人には定期接種となり、4年前からはA型2種類とB型2種類の4価ワクチンに変更されました。毎年10月から12月に1回接種することで、インフルエンザにかかりにくくなる有効性が確認されています。また、その効果は接種後約2週間から上昇し、3〜5ヶ月持続します。感染を完全には防止できませんが、肺炎などの合併症や入院や死亡に至るような重症化を防ぐことができます。副作用も約10%の人に接種部位の腫れなどを認めますが、軽いものが多く、特に肺や心臓などに持病を持つ方にはお勧めします。
●肺炎球菌ワクチン
肺炎は日本人の死因の常に上位を占める重篤な病気で、その95%は65歳以上の人に集中しています。その原因として最も多いのが肺炎球菌で、この菌には90種類以上の型が存在します。平成26年から定期予防接種として23価の多糖体ワクチンが使用されていますが、このワクチンは幅広い型の菌に対応できる長所がある反面、免疫力の維持に弱点があります。この点を補うためには現在乳児に接種されている13価の結合型ワクチンが有効です。すでに23価ワクチンを接種した方は、任意接種となりますが初回接種から1年後に13価ワクチンを、5年後に23価ワクチンの再接種がお勧めです。
●水痘・帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスによる病気で、50歳代以降から発病する人が増えます。平均寿命が伸びたことにより生涯に複数回発病する人もあり、3人に1人は経験するとも言われています。問題なのは、帯状疱疹後神経痛という強い痛みが長期間残るという後遺症で、その後の日常生活の質を大きく落とします。痛みを抑えるため強い鎮痛剤を長く必要としたり、不眠症やうつ病を起こして睡眠剤が中止できなくなる人も多く見られます。平成28年から帯状疱疹の予防目的での水痘ワクチン接種が50歳以上の人に任意接種として可能になり、発病防止や重症化予防に対する有効性が確認されています。
同じ病気でも高齢になってから罹ってしまうと、長引きやすく、重症化しやすく、合併症や後遺症を起こしやすい傾向があります。健康寿命を延ばすために、予防できるものは積極的に予防しましょう。ワクチン接種をお勧めします。