突然指が紫に?~アヘンバッハ症候群とは~

奈良県医師会 山本忠彦

(山本医院・葛城市)

ある日突然、手の指に内出血のようなあざができ、指先が紫色に腫(は)れてしまった。痛みもあり、不安になって病院を受診したものの、レントゲンや血液検査では異常が見つからない―このような経験をされた方はいらっしゃいませんか?

これは「アヘンバッハ症候群(Achenbach症候群)」と呼ばれる病態で、比較的まれながらも、特に中高年の女性に時折みられる良性の疾患です。

ドイツの医師アヘンバッハによって初めて報告されたため、この名前がついています。日本では「指の皮下出血症候群」や「手指自発性血腫(けっしゅ)」などとも呼ばれます。

この症候群の特徴は、特にきっかけもなく突然、手の指(とくに中指や薬指)に内出血が起きることです。見た目はあざのように紫色になり、軽い腫れや痛みを伴うことが多いですが、しびれや運動障害は通常みられません。症状は数日から1~2週間で自然に改善し、後遺症も残りません。

原因はまだはっきりとはわかっていませんが、指先の細かい血管が一時的に破れて出血することで症状が出ると考えられています。血管が脆(もろ)くなっていることや、一時的な血流の変化などが関係している可能性がありますが、重篤な循環器疾患や血液の病気ではありません。

診断は、問診と視診が中心になります。突然の症状や紫色の変色、他の病気を示す所見がないことから判断されます。レントゲンや血液検査では特別な異常が見つからないため、「何の病気かわからない」「検査で異常がないので気のせいかもしれない」と思われがちですが、アヘンバッハ症候群を知っていれば、的確に診断できます。

治療は、基本的に安静と経過観察が中心です。特別な薬や手術は必要ありません。痛みが強い場合には、鎮痛剤(痛み止め)を使うこともありますが、多くは何もしなくても自然に良くなります。冷やしたり強く揉(も)んだりすると、血行が悪化する可能性があるため、症状が出たときは患部を安静に保ち、過度な刺激を避けることが大切です。

心配すべき病気ではありませんが、繰り返し起こる場合や、指先の感覚に異常がある、長期間変色が続くといった場合には、他の病気(血液疾患や血管炎など)の可能性もあるため、医師の診察を受けるようにしてください。

最後に、アヘンバッハ症候群は比較的珍しいものですが、知っていれば過度に心配する必要のない病気です。突然の紫色の変化に驚くかもしれませんが、命に関わるようなものではありません。症状が自然に治まることがほとんどですので、落ち着いて対処することが大切です。