奈良県医師会 井戸芳樹
(奈良市・新大宮診療所)
日本では高血圧の患者数は非常に多く、推定4,000万人以上にのぼるとされています。高血圧は自覚症状がほとんどないため軽視されやすい病気ですが、放置すると脳卒中、心筋梗塞、心不全、慢性腎臓病など命に関わる病気を引き起こします。
特に日本人は脳卒中のリスクが高いとされ、健康寿命を縮める大きな要因となっています。
こうした背景から、2025年の『高血圧治療ガイドライン』では、「より早期から、より確実に血圧を下げる」ことの重要性が改めて示されました。
▶「少し高い」でも安心できない時代に
これまで高齢者では「年齢相応に少し高めでも仕方ない」と考えられることがありました。しかし近年の研究では、年齢に関係なく血圧を適切に管理した方が、脳卒中や心血管病を減らし、寿命や生活の質の改善につながることが明らかになっています。
特に日本人は食塩摂取量が多い傾向もあり、高血圧による血管障害を起こしやすいとされています。そのため今回のガイドラインでは、高齢者でも安全性に配慮しながら、できるだけ目標値に近づける方針が重視されました。
▶新しい降圧目標 ― 年齢を問わず130/80未満へ
2025年版ガイドラインでは、診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満が重要な目標とされています。注目すべき点は、「年齢を問わず」この基準を目指す方向性がより明確になったことです。もちろん、持病や体力、ふらつきの有無などを考慮して個別に調整されますが、多くの人でより厳格な血圧管理が推奨されています。最近の大規模研究でも、積極的に血圧を下げた群では、脳卒中や心不全、心血管死亡が減少することが示されています。
▶家庭血圧がより重要に
今回の改訂で、特に重視されているのが家庭血圧です。診察室では緊張によって血圧が高くなる「白衣高血圧」がある一方、病院では正常でも家庭で高くなる「仮面高血圧」も存在します。そのため、日常生活に近い状態で測定する家庭血圧の方が、将来の脳卒中や心筋梗塞のリスクをより正確に反映すると考えられています。
家庭血圧は、朝起床後1時間以内と夜就寝前に測定するのが基本で、継続することで血圧の変化や治療効果を把握しやすくなります。
▶日本の血圧管理率は依然低い
日本では高血圧治療を受ける人は増えているものの、実際に目標血圧を達成している人は約25%程度とされます。背景には、症状がないため治療を中断してしまうことや、家庭血圧を測る習慣が少ないこと、減塩や運動療法が継続しにくいことなどがあります。
しかし高血圧は“沈黙の病気”とも呼ばれ、症状がなくても血管障害は進行します。
▶今日から始めたい血圧管理
血圧管理の基本は、減塩、適度な運動、体重管理、節酒、禁煙、十分な睡眠です。さらに、家庭血圧を継続的に測定し、必要に応じて薬物治療を行うことが重要です。
2025年ガイドラインは、「血圧は早めに、しっかり管理する時代」に入ったことを示しています。将来の脳卒中や心臓病を防ぐためにも、まずは家庭で血圧を測る習慣から始めることが大切です。



