奈良県医師会 北原 糺
(奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室 教授)
認知症リスクは原因不明の部分が60%を占めますが、残りの40%は自分が気を付けていれば予防対策をとれることがわかってきました。その努力で何とかなる40%の中で、「難聴対策」が6%、「活動性低下」も6%を占めます。さらに難聴も活動性低下も社会的孤立や鬱(うつ)を併発すれば、認知症リスクは倍になると試算されています。つまり、難聴対策とめまい対策は、この超高齢社会において、楽しく幸せに生きていくための健康長寿にとって非常に重要です。
第三話では、めまいの原因として最も頻度が高い、「良性発作性頭位めまい症」(BPPV)に有効なセルフケアを紹介します。
耳石(じせき)によって起こるめまいは、3つの順序を経ることでめまいが発生すると、第二話(8月20日付)で解説しました。耳石によるめまいは、次の3つの順序を経て、はじめて発症します。
① 耳石が剥(は)がれる
② 耳石がこぼれる
③ 耳石が動く
めまいを防ぐためには、耳石器の皿から耳石が剥がれなければよいわけです。耳石は、カルシウムの小さな粒からできています。特に高齢の女性がBPPVを発症しやすいのは、閉経後、女性ホルモン(エストロゲン)が減少するためです。エストロゲンは、骨の代謝を調節しているため、このホルモン分泌(ぶんぴつ)が減ると、骨からカルシウムが溶け出し、骨量が減っていきます。閉経後の女性が骨粗鬆(こつそしょう)症になりやすくなるのは、このためです。これと同様、カルシウムでできた耳石も、もろく、剥がれやすくなるのです。
そこで、耳石が剥がれるのを防ぐためには、女性に限らず男性も、カルシウムを豊富に含んだ食品を積極的に摂取する必要があります。カルシウムに加えて、ビタミンDを摂取することも勧められます。ビタミンDは、カルシウムとともにとることで、腸管でのカルシウムの吸収を促すためです。また、卵形嚢(らんけいのう)の血流を促すために、水分を1日1・5~2ℓ程度摂取することもお勧めします。
次に、耳石が剥がれてしまった場合の対策法です。耳石が剥がれても、立っている間は、卵形嚢という皿は地面と水平なので、その上の耳石は落ちません。ところが、寝るときは、体が横になるため、卵形嚢は床に対して垂直になり、剥がれている耳石が三半規管に落下してしまいます。皿が90度に傾くから、耳石が落ちてしまう。であれば、皿を傾けないようにして寝る、つまり、頭を高くして寝ればいいのだと私は考えました。こうして生まれたのが、「ヘッドアップ就寝治療」です。これは、奈良県立医科大学オリジナルのセルフケア法になります。
それでも、石が三半規管に落ちてしまった場合、どうすればよいでしょうか。頭を動かすことで、三半規管の中に落ちた耳石が揺れて、めまいが生じます。であれば、頭を動かさずに生活すればよいのです。耳石はおよそ1カ月間で代謝され、消えます。ですから、1カ月間、頭をなるべく動かさないように過ごして耳石が揺れないように努めれば、めまいの発症リスクが低下するのです。具体的には、「頭と地面との距離が常に一定になるように、極力頭を固定しながら動く」ことを心がければよいでしょう。
三話にわたり本稿をお読みいただき、自分のめまいについて正しく理解していただければ、不安から解放されることでしょう。そのうえでセルフケアを根気強く実践すれば、きっと症状は改善へと進みます。どうか、決して諦めないでください。本稿がめまいに悩む多くの人たちの助けとなるのなら、これに優(まさ)る喜びはありません。めまいのことを考えると憂鬱になっていたすべての人たちに、笑顔が戻ることを願って、筆を置きます。
「お知らせ」
奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室では、10月31日(土曜日)、奈良県コンベンションセンター(奈良市三条大路)において、市民講座『認知症リスクから日常生活を守るために』を主催することとなりました。
一人でも多くの県民・市民の方にご参集いただくため、参加費を無料として、フリーアナウンサーの中井美穂さんを総合司会に迎え、専門医師(北原・内田)によりめまいと難聴についてわかりやすい解説と、対処法についてのアドバイスをさせていただきます。



